その国の女

白川津 中々

 薄暗い部屋、旅先で買った女の拙い英語が耳に届く。


「私も外国へ行ってみたいな」


 外とは打って変わって寒いくらいにエアコンの効いた中、ボタンを掛ける手を止めた。

 

「どれくらい客を取ればいいの?」


 女は「たくさん」と答えた。意地の悪い質問をしたと思う。


 男一人につき入ってくる金は、俺の想像を下回るだろう。それでも真っ当な店で働くより稼げるうえ、扱いもいいようだ。モーテルに入る前に立ち寄った小売店。店番をしていた少女の眼は濁りきり、朽ちた野良犬のようだった。


「この国でいいじゃないか。自然も綺麗だし、活気がある」


 罪滅ぼしをするように、思ってもいない言葉を吐く。偽善、欺瞞。口に出した瞬間後悔するくらいには恥の意識はあったが、安い金で女を買ったという事実を忘れていた点は否めない。どの面下げて贖罪をしているのか。


「ここの海は好き。でも、他の国も見てみたいんだ。どんな街があって、どんな人がいるのか。お料理も食べたい。お酒も飲みたい。少しでいいから」


「……」


「お兄さん、私をお嫁にしてよ。私、なんでもするから。ご飯も作るし、求められたら、なんだって……」


「そろそろ時間なんじゃないか」


 俺はいたたまれずモーテルを出た。その際にチップを投げて渡したが、きっとそれも何割かは取られてしまうのだろう。路地では喧騒と埃が絶えず、下水と廃油とカビと動物の臭いが混じっている。

 歩きながら、彼女の笑顔と、肌の感触を思い出す。どうしても、あの瑞々しい女の肉を忘れられない。自責と欲望が、同時に湧き上がる。



 「暑い」


 額に粒だった汗を拭うと、手の甲が薄黒く汚れた。


 彼女たちは、この汚れの中で生きている。

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