その国の女
白川津 中々
■
薄暗い部屋、旅先で買った女の拙い英語が耳に届く。
「私も外国へ行ってみたいな」
外とは打って変わって寒いくらいにエアコンの効いた中、ボタンを掛ける手を止めた。
「どれくらい客を取ればいいの?」
女は「たくさん」と答えた。意地の悪い質問をしたと思う。
男一人につき入ってくる金は、俺の想像を下回るだろう。それでも真っ当な店で働くより稼げるうえ、扱いもいいようだ。モーテルに入る前に立ち寄った小売店。店番をしていた少女の眼は濁りきり、朽ちた野良犬のようだった。
「この国でいいじゃないか。自然も綺麗だし、活気がある」
罪滅ぼしをするように、思ってもいない言葉を吐く。偽善、欺瞞。口に出した瞬間後悔するくらいには恥の意識はあったが、安い金で女を買ったという事実を忘れていた点は否めない。どの面下げて贖罪をしているのか。
「ここの海は好き。でも、他の国も見てみたいんだ。どんな街があって、どんな人がいるのか。お料理も食べたい。お酒も飲みたい。少しでいいから」
「……」
「お兄さん、私をお嫁にしてよ。私、なんでもするから。ご飯も作るし、求められたら、なんだって……」
「そろそろ時間なんじゃないか」
俺はいたたまれずモーテルを出た。その際にチップを投げて渡したが、きっとそれも何割かは取られてしまうのだろう。路地では喧騒と埃が絶えず、下水と廃油とカビと動物の臭いが混じっている。
歩きながら、彼女の笑顔と、肌の感触を思い出す。どうしても、あの瑞々しい女の肉を忘れられない。自責と欲望が、同時に湧き上がる。
「暑い」
額に粒だった汗を拭うと、手の甲が薄黒く汚れた。
彼女たちは、この汚れの中で生きている。
その国の女 白川津 中々 @taka1212384
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