短編のレビューは非常にむずかしいのですが…とっても推したいので書きます。
こちらの短編は、自分の心が弱った時にこそ、3cm上を向いて歩こうという気分にさせってもらえる作品です。
「ごめんなさい」を口癖のようにしてしまった主人公の語りから始まります。
必要とされない人間と根付いてしまった心の闇は深く、それはまた新たな負の感情と反射的に自分が悪くないのに謝るという行動を呼び寄せます。
そんな中で降る雨。
傘もない、自分は転がされたキャンディのようにちっぽけだと鬱々とした主人公の前に降り注ぐ飴。
空から飴が降ってきた。上を見ますよね。雨ではなくて飴です。
包み紙をひらいてそっと口に入れた瞬間の味。
主人公のつぶやきと共に垣間見えた笑顔は、3cm視界を上にあげてくれます。
もうあなたはキャンディの存在ではないのだよと。
足元を見てばかりだと必然的に気持ちも沈みます。そして気持ちが沈むと悪い気しか寄ってこないので「ついてない人生」になっていきます。
かみさまがくれたご褒美とともに、こちらの短編で沈んだ気持ちを3cmあげられますように。素敵な作品をありがとうございました。
希望ではない
成長でもない
でも確かに、味を知った
この短編は、その控えめで確かな一点から、最後まで離れない。
語り手は、幼いころから何度も否定されてきた。
理由を問われ、居場所を測られ、そのたびに差し出せる言葉は
「ごめんなさい」しかなかった。
謝罪は癖になり、やがて自己認識そのものになる。
投げ捨てられたキャンディが、そのまま自分の価値に重なっていく描写は、静かで、逃げ場がない。
雨の中、傘を持たずに立つ場面で、世界は一度、完全に敵になる。
恨みも呪いも、みっともない感情として自覚しながら、それでも抱えてしまう。
やがて雨は上がり、
花のように一斉に開き、
また一斉に閉じる傘が、
街の中で静かに呼吸を揃える。
その情景の美しさだけが、説明なしに残る。
語り手は信じない。
毒を疑い、裏切りを想像する。
それでも拾い上げ、包みを開け、口に入れる。
そして知る。
裏切られなかった、というだけの事実を。
世界は変わらない。
雑踏は流れ、傷は消えない。
それでも、「そういう甘さだった」と言える経験が残る。
この作品は、その一瞬の手触りを、過剰に意味づけることなく、そっと差し出して終わる。