希望ではない
成長でもない
でも確かに、味を知った
この短編は、その控えめで確かな一点から、最後まで離れない。
語り手は、幼いころから何度も否定されてきた。
理由を問われ、居場所を測られ、そのたびに差し出せる言葉は
「ごめんなさい」しかなかった。
謝罪は癖になり、やがて自己認識そのものになる。
投げ捨てられたキャンディが、そのまま自分の価値に重なっていく描写は、静かで、逃げ場がない。
雨の中、傘を持たずに立つ場面で、世界は一度、完全に敵になる。
恨みも呪いも、みっともない感情として自覚しながら、それでも抱えてしまう。
やがて雨は上がり、
花のように一斉に開き、
また一斉に閉じる傘が、
街の中で静かに呼吸を揃える。
その情景の美しさだけが、説明なしに残る。
語り手は信じない。
毒を疑い、裏切りを想像する。
それでも拾い上げ、包みを開け、口に入れる。
そして知る。
裏切られなかった、というだけの事実を。
世界は変わらない。
雑踏は流れ、傷は消えない。
それでも、「そういう甘さだった」と言える経験が残る。
この作品は、その一瞬の手触りを、過剰に意味づけることなく、そっと差し出して終わる。