第16話 正義は、一人だと壊れる
ユズルは、交差点から離れた屋上にいた。
血の匂いは、もうしない。
だが、
失敗の感触だけが、指に残っている。
(戻れなかった)
(誰も、救えなかった)
それが、
こんなにも重いとは思わなかった。
ノートを開く。
数字。
記録。
最適化。
どれも、
今回は役に立たなかった。
ページの端に、
無意識に書いた言葉。
「複数干渉」
それを見た瞬間、
ペンが止まる。
(……一人じゃ、無理だ)
その考えが浮かんだこと自体に、
ユズルは驚いた。
共犯。
協力。
分担。
どれも、
今まで排除してきた概念だ。
(他人は、間違える)
(だから、俺がやる)
それが、
ユズルの正義だった。
だが――。
(俺も、間違える)
あの冤罪の顔。
あの交差点。
あの“確定”。
頭の中で、
何度も再生される。
ふと、
アシメの言葉がよぎる。
『一人で宿題をやってるだけだ』
歯を、噛みしめる。
「……うるさい」
だが、
否定しきれない。
ユズルは、
第三能力者の顔を思い出す。
あの男。
失敗しか、
存在しない人間。
(あいつは、壊すしかない)
だが――。
(壊す前に、使えるかもしれない)
その発想に、
胸がざわついた。
(共犯は、正義を薄める)
(でも――)
(暴走を、止められる)
自分自身を。
ユズルは、
初めて自覚する。
自分は、
制御不能になる未来を恐れている。
だから、
誰かを必要としている。
夜。
スマホの画面に、
知らない番号。
出る。
「……誰だ」
『やっと、考え始めたか』
あの声。
失敗作。
「用件は?」
『簡単だ』
『壊すか、組むか』
単純で、
残酷な選択。
ユズルは、
目を閉じた。
父の背中。
血。
数字。
確定。
全部が、
一本の線になる。
「……条件がある」
自分の声が、
思ったより低い。
『ほう』
「無差別は、許さない」
「俺が、止める」
一瞬の沈黙。
そして、
男は笑った。
『……いい顔になったな』
『それでこそ、共犯だ』
通話が切れる。
ユズルは、
スマホを握りしめる。
胸の奥で、
何かが決定した。
ノートの新しいページ。
タイトルを書く。
「役割分担」
その下に、
一行だけ。
「俺は、“確定”させる側」
正義は、
一人だと、
壊れる。
だから――。
壊れないために、
誰かと組む。
それが、
ユズルの出した答えだった。
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ジャスティス・キラー・タイムリーパー イミハ @imia3341
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