第4話
『じぃじ! 今日は演舞の稽古のはずでしょう? なんで刺繍の婦人が来ているの?』
『ねぇ、お姉さま。私が大精霊と契約出来ないから、みんないなくなってしまったの?』
なぜ、なぜ……。
目まぐるしく変わる場面。彼女はわかっていた。これは夢、だと。
だからこそ苦しい。これは彼女の『かつてあった現実』なのだ。
幼いころから親の愛情はもらえなかった。家にいたのはいつもメイドと乳母のみ。両親の姿を見るのは年に一度、皇帝陛下への謁見の時だけだった。それも謁見が終わったらすぐに仕事に行ってしまう。話すこともないのだ。兄や姉も同じようにされていたのなら、まだ飲み込めた。まだ、我慢が出来た。
けれど、他の兄妹には時間を作り、その愛情を示していたのだ。だからこそ彼女は周りに問いかけるのだ。『なぜ』と。
「……なんて、懐かしい夢」
見慣れた煤けた天井。簡素なベットとテーブル。クローゼットもチェストもない。質素というよりも簡素な部屋。窓枠からは二つある月の光が仄かに部屋に入っている。
今が朝であろうと夜であろうと変わらない景色。上らない陽の光。それはまるで彼女の心を映すかのように冷えていた。
両手首についている枷が重く力を削いでいる。実際彼女が使えていたはずの魔法が使えないことから、この枷が力を奪っているのは事実だろう。
彼女は薄汚れた髪を冷えてしまった水桶で洗う。回収されていないタオルで拭い、少しほっとする。冷えたスープと固いパン。それが彼女に与えられた一日の食事だった。
もうここに連れてこられて何日なのか、数えるのもやめてしまった。当初はあった救出の期待も、いつの間にか消えてしまっていた。
「……番(つがい)」
それでも彼女は願う。あるいは自分の番ならば、探してくれるのではないか、と。
まだ彼女が豪奢な邸宅で住んでいた頃、メイドたちが話していたのだ。
この世界には唯一無二の存在である番という者がいる、ということを。それは魂に刻まれた存在。契約で結ぶ精霊との関係よりも強固で揺るがないものだと。
その話を聞いたまだ幼い彼女は思ったのだ。自分に冷たい両親よりも、兄妹よりも、唯一自分を見てくれる存在を熱望した。だがらこそ、恥じないように勉学も魔法の使い方も練習し力としてきた。
「けど、それでこの様じゃ……呆れられてしまうかしら……」
誰かもわからない、本当に存在しているのかもわからない存在にすがるほど彼女は疲れてしまったのだ。
「私の取引は明後日……」
男たちが話していた。自分はどこかの貴族に買われたらしい。いい値になったと喜ぶ声がとても汚らわしかった。
明後日には、運命が決まる。
次の更新予定
2026年1月21日 18:00
仮 蒼縞 @AoshimaHisui_0730
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