第3話

 あれから酒場の人たちに色々と教えてもらった。

 男が今いるのは三国ある国の一つ【エスブルグ国】だという。鉱石が多く採れるエスブルグは、他の二国に比べ魔法を使える者は多くない。侯爵、公爵の二つの貴族たちには魔力持ちが生まれやすい、らしい。

 魔法に依存する【シェラザード国】とは違い、比較的自分たちでなんとかしようとする人たちが多くいるので、建築などの建物はここのほうがしっかりしているのだという。

 ジルは麦酒をあおりながら男の肩をがっしりと抱く。


「あんたなら他の国に行ったとしてもそのブドー?でどうにかなる! 俺が保証してやる!」


 がっはっは!と豪快に笑う。

 あの後、周りに叱られてさらにダメージを負ったジルは、男と一緒に呑むことで水に流そうとしているのだった。男も別段気にしていないので、ジルの奢りだという麦酒を一緒に呑んでいた。


「それよりあんたの名前言いにくいな。なんて言ったか、シシー……」


「獅子堂 道真(ししどう みちざね)だ。まぁ、難しいか……。呼びやすい呼び方で構わない」


 この世界では海外のような名前が主流らしく、道真のような和名はとても珍しいのだそうだ。ゆえに発音も難しいのだそう。周りが「シシー」で定着するころ、道真が今晩の宿を店主に聞いた。

 どうやら酒場と宿屋は一体らしく、都合よく部屋も空いており今晩の寝る場所は確保された。

 そして部屋に入った道真はベットに胡坐をかいて何もない空間を見つめる。


「異世界なら、ステータスを表示させたりできるが……」


 「ステータスオープン」という言葉が響いたが、どこに目をやっても何も表示されない。


「はずれか。あの猫は精霊がどうとか言ってたな。だが、この国は魔法の使用率が低い……精霊についても住民は御伽噺でしか知らなかった」


 テーブルの上には「居眠りドラゴンと精霊」という絵本が置いてあった。話を聞いていた住民の一人が家にあるというこれを持ってきてくれたのだ。パラパラと本をめくるが、そこにはドラゴンに困った精霊が、人間に助けを求めて力を授ける……そんな話が童話のように書かれているものだった。


「そういえば呼びだす呪文があったか」


 絵本の中に呼び出す際の呪文が載っていたのだ。もちろん子供向けなので難しい文言では書かれておらず、どちらかといえばお願いに近い形で載っていた。

 二言、三言、言葉を紡ぐ。

 うっすらと部屋の温度が下がる。

 部屋を見回してみると、猫がくれた紫の扇が淡く光を帯びている。

 道真が驚きで言葉を失っていると、リンと鈴のような音が聞こえ、


『この文言……。とても久方ぶりに聴きましたね』


 そう、柔らかな女性の声が道真の脳内に響いたのだった。


「これは……成功、したのか?」


『えぇ。よく見つけてくれました。ありがとうございます』


 姿は見えないが、クスリと笑ったように感じた。

 どうやら彼女は氷の精霊のようで、道真のそばには最初から居たのだそう。だが、魔力を持たない道真に姿や声が聞こえるわけではないので、媒体となる扇の中で眠っていたのだという。


『こうして話が出来てよかった。女神は全部を話すには制約が多いお方。私も話せないこともありますが、彼女よりかは役にたてます』


「ありがとう。それなら、俺はこれからどうすればいい?」


『それなら、まずはこの国に蔓延っている悪を、討っていただきたいと思います』


「悪?」


 着ている道着では寒く、布団をかぶりながら道真は扇に向かってしゃべりかける。


『えぇ、悪です。この国では人々の売り買い、奴隷制度が根強くあります。精霊ではなく、目に見える労働力を使って発展してきた過去を持ち、それは今なお解消されてはいません』


「奴隷……異世界であっても人は強欲なんだな」


 その後も二人であれやこれやと話をした。

 話疲れた精霊を休ませ、道真は一人ベットに横になり思案する。

 首謀者はわからないが、関与しているのは王族にもいるであろうという予測は想像に容易い。貴族はその成り立ちからしても黒に近いだろう。


「そういえば……」


 そう。彼女が眠る前に話していたのだ。

『他の国の王族を攫って、我が物にしようとする者がいる』と。


「流石に王族だから守られているはずなんだが、精霊の言葉に嘘はないだいだろうし……」


 苦い顔をしながらその日は道真も眠りについたのだった。

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