第20話 勇者でなくても


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朝。


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少しだけ、

早く目が覚めた。


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氷室竜司は、

布団の中で、

天井を見つめる。


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「……夢、

 見てたな」


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内容は、

思い出せない。


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ただ。


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誰かと、

別れた。


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そんな、

感覚だけが、

残っている。


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### 小さな決断


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洗面所。


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鏡の前で、

顔を洗う。


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水が、

冷たい。


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「……よし」


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それだけで、

十分だった。


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仕事へ向かう途中。


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いつもより、

一本早い電車に、

乗った。


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理由は、

ない。


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ただ、

少しだけ、

前に進みたかった。


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### すれ違い


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駅前。


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重そうな荷物を、

抱えた女性が、

立ち止まっていた。


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竜司は、

自然に、

声をかける。


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「……持ちましょうか」


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「え?

 あ、

 ありがとうございます」


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荷物は、

思ったより、

軽かった。


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目的地まで、

少しの距離。


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会話は、

多くない。


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それでも。


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「助かりました」


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その一言で、

胸の奥が、

温かくなる。


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### 世界は続く


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工場。


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いつも通りの作業。


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だが、

竜司は、

気づいていた。


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自分が、

周囲を、

よく見ていること。


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人の動き。

機械の音。


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無意識に、

守ろうとしている。


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誰かを。


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※勇者でなくても

特別な称号や使命がなくても、

誰かを助ける行動は、

確かに価値がある。


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### 夜の帰り道


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街灯の下。


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影が、

足元に伸びる。


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その影を見て、

竜司は、

少し笑った。


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「……長いな」


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それは、

過去の自分。


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重ねてきた時間。


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戦い。


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名前も、

顔も、

もう、

思い出せない。


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それで、

いい。


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### 最後の余韻


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遠い世界。


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丘の石碑。


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風が吹き、

草が揺れる。


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誰もいない。


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だが、

確かに、

そこに何かが、

あった。


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世界は、

それを、

忘れない。


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形としてではなく。


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在り方として。


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### エピローグ


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氷室竜司は、

今日も、

眠りにつく。


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英雄としてではなく。


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ただの、

一人の人間として。


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それで、

十分だった。


--完--

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選ばれなかった勇者 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123

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