第19話 選ばれなかった未来


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朝は、

静かに始まる。


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目覚まし時計の音。

カーテン越しの光。

少し冷たい空気。


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氷室竜司は、

いつもの時間に起きた。


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「……今日も、

 仕事か」


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独り言は、

誰にも届かない。


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それで、

いい。


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### 選ばれない日常


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工場のライン。


規則正しい音。

同じ動き。


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「竜司くん、

 助かったよ」


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「いえ」


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特別な言葉は、

返さない。


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だが、

その一言だけで、

胸の奥が、

少し軽くなる。


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評価される理由は、

分からない。


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集中力。

反応の速さ。

無意識の判断。


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かつての戦いの名残だと、

誰も知らない。


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竜司自身も、

知らない。


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※選ばれない人生

世界の修正機能から外れ、

何者でもない存在として生きること。

特別な使命はないが、

自由がある。


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### ある休日


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商店街。


人の声。

笑い声。


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竜司は、

焼き鳥の匂いに、

足を止めた。


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「……一本、

 いくか」


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小銭を出す。


受け取る。


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熱い。


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「……うまいな」


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理由は、

分からない。


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だが。


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「生きてる、

 って感じだ」


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その言葉が、

自然に出た。


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### ふとした違和感


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夜。


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アパートの部屋。


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テレビを消し、

窓を開ける。


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風が、

カーテンを揺らす。


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月は、

丸い。


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その光を見た瞬間。


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胸の奥が、

かすかに、

疼いた。


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(……誰か、

 見てる?)


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そんな気がした。


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だが、

怖くはない。


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むしろ――

懐かしい。


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「……大丈夫だ」


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誰かに、

そう言ってもらったような。


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それだけで、

安心できた。


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### 異世界の空の下


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同じ月が、

異世界にも、

昇っていた。


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セラは、

王都の外れで、

夜空を見上げていた。


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「……あなたは、

 選ばれなかった未来を、

 歩いてる」


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それが、

正しいと、

彼女は思えた。


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英雄は、

戦い続ける存在じゃない。


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「生き続けること」


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それ自体が、

勝利なのだと。


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### 世界の答え


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境界は、

もう、

存在しない。


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魔王も、

勇者も、

いない。


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それでも、

世界は、

崩れなかった。


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むしろ――

静かに、

整っている。


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それが、

答えだった。


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氷室竜司という存在は、

世界を救った。


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だが、

世界は、

彼に何も、

求めなかった。


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だからこそ。


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彼は、

今日も、

朝を迎える。


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選ばれなかった未来を、

自分の足で、

歩いていく。


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