第一部

第1話 ――記録抄

記録者:連邦国立歴史院所属

年代区分:第九期初頭


───


約一〇〇〇年前、

ある時点を境に、世界各地で大規模な消失が確認されるようになった。


都市。

集落。

生活圏そのもの。


戦争の痕跡はない。

疫病の連鎖でもない。

地殻変動や気候変動とも、明確に一致しない。


それらは、ある日を境に忽然と機能を失い、

二度と回復することはなかった。


当初、この現象は偶発的な天災として扱われていた。

しかし記録を遡り、発生地点と時系列を照合した結果、

一つの異常が浮かび上がる。


消失は、不定期ではあるが連続している。

しかも、完全な無秩序ではない。


発生地点は、

あたかも――

何かが移動した痕跡のように連なっている。


都市から都市へ。

生活圏から生活圏へ。


私はこの現象を、

単なる自然現象とは考えていない。


地震や嵐が、

意図を持って道筋を選ぶことはない。


だが、この崩壊には、

方向性がある。


あたかも、

意識を持った何かが、

物理的に移動しているかのように。


原因の解析は、未だ不明である。


ある者はこれを祟りと呼び、

またある者は、この星そのものの意思だと語る。


だが、私はそのどちらにも与しない。


祟りにしては、個人的すぎる。

星の意思にしては、局所的すぎる。


この現象は、

もっと曖昧で、

もっと歪で、

そして――

もっと「失敗」に近い。


興味深いことに、

ここ数十年の間、

この規模の消失は確認されていない。


世界は一見、安定している。

各国は復興を果たし、

禁足地は地図の端に追いやられ、

人々は再び都市を築き始めている。


だが、私はその沈黙を

終息とは捉えていない。


ただ、観測されていないだけだ。


そして今、私は

最後に壊滅的な破壊を受けた都市――

通称、復都市の調査に訪れている。


ここは、

「再建されたはずだった場所」だ。


石畳は途中で途切れ、

水路は途中で折れ、

生活の痕跡は、

ある一点を境に唐突に断絶している。


まるで、

続くはずだった未来だけが、

削除されたかのように。


私は、ここに来て確信している。


この崩壊は、

過去の出来事ではない。


そして、

原因は消えていない。


ただ――

まだ、動いていないだけだ。


記録は、ここで一度筆を置く。




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千年破滅願望──消えたいと願う度、世界が壊れた。 濃紅 @a22041

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