破滅願望の生誕 ❺

 走って、走って、

 気づいたら、ひとりになっていた。


 息が荒い。

 喉が痛い。

 でも、立ち止まらない方がよかったと思う。


 人のいる場所にいると、

 どうしても、あれを思い出してしまう。


 洗った芋。

 割れた食器。

 崩れた水場。


 自分の手伝いが無駄になるのは、いい。

 元から、そんなに役に立っていない。

 それは、分かっている。


 でも。


 あの場所には、

 ちゃんと頑張っていた人たちがいた。


 火を起こして、

 水を運んで、

 少しでも今日を回そうとしていた。


 それを――

 自分が、壊した。


 わざとじゃない。

 何もしていない。


 それでも、結果は同じだ。


「……ごめんなさい」


 誰もいないのに、そう言った。


 考えれば考えるほど、

 都市のことも、やっぱり自分のせいなんだと思えてくる。


 料理場が壊れた。

 生活が壊れた。


 あれが小さな規模なら、

 都市は、大きかっただけ。


 やっていることは、同じ。


 自分は、

 人の努力を、踏みにじる存在だ。


 それが、一番つらい。


 だから、もう関わるのは避けよう。

 人のいる場所から、離れよう。


 それが、正しい。


 早く、ここから消えたい。

 早く、終わらせたい。


 そう思った瞬間、

 無意識に、腕に力を込めようとした。


 ――でも。


 動かない。


 指先に、力が入らない。

 さっきまで走れていたはずなのに。


「……まただ」


 胸の奥が、冷える。


 考えたから。

 今、考えたから。


 そう気づいた途端、

 足も、重くなる。


 息が、浅い。

 吸おうとしても、うまくいかない。


 止まる。


 ああ、そうか。


 考え込むと、

 自分は、動けなくなる。


 芋を洗っていたときも。

 立ち上がれなかったときも。

 今も。


 偶然じゃない。

 一度きりでもない。


「……ルール、なのかも」


 誰に言うでもなく、呟いた。


 ゲームなら、

 そういう仕様も、あり得る。


 条件を満たすと、操作不能になる。

 入力を間違えると、行動が封じられる。


 きっと、自分は、

 そういう状態なんだ。


 ちゃんと出来ていない。

 普通に存在することすら、下手。


 動けば、止められて。

 止まれば、周りが壊れる。


 どちらに転んでも、

 迷惑しか、残らない。


 しばらくして、

 少しだけ、息が落ち着いた。


 考えるのを、やめたからだと思う。


 立ち上がる。

 今度は、動けた。


 ……ほら。


 考えなければ、

 ちゃんと動ける。


 それが、分かってしまったのが、

 一番、嫌だった。


 自分は、歩き出す。


 考えないように。

 何も、壊さないように。


 ひとりで。




 ─────────────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る