なぜSF小説は衰退したのか?

廣瀬誠人

なぜSF小説は衰退したのか?

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 そこに広がっているのは、いつもの見慣れた光景。


 剣と魔法、異世界転生、悪役令嬢、ダンジョン探索。 色とりどりの「ファンタジー」が、煌びやかな海のように溢れている。


 読者が求め、作者が供給し、巨大な市場が形成されている。


 その一方で、検索条件を「SF」に絞り込んでみると...。


 途端に、画面は静まり返る。


 投稿数は激減し、ランキングのポイントも控えめ。


「Web小説でSFは流行らない」「SFは鬼門」


 この界隈で筆を執る者なら、誰もが一度は耳にする呪いのような定説。


 多くの人はこう言う。


「設定が難しいから」「現実の技術進歩が追いついたから」「流行りのテンプレがないから」


 確かにそれもあると思う。


 しかし、実際にSFを書き始め、ランキングの片隅で声を上げ始めて直面したのは、もっと別の、より直接的で残酷な「真因」に辿り着いた。


「SFを書こうとする芽が、摘み取られ続けている」


 それも、SFを愛していると自称する、一部の読者たちの手によって。


 ***


 私は、三度の飯より、宇宙とメカと、未知なるテクノロジーが好きだ。


 だからこそ、流行りの異世界ファンタジーではなく、あえて茨の道である宇宙SFを選んだ。


 タイトルは『廃棄惑星に追放された俺、万能物質マター生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる』。


 Web小説の文脈である「追放ざまぁ」や「生産チート」の要素を取り入れつつも、大好きなスペースオペラの世界観を融合させた処女作だ。


 なろうのSFジャンルにおいて、連載開始1ヶ月間で10万PVに到達し、SFのランキングで1位にもなり、順調に読者も増えていった。


「面白い」「続きが楽しみ」という温かい声も貰うことができた。


 だが、それ以上に精神を削り取っていったのは、物語の筋書きとは全く無関係な、ある種の人々からの「洗礼」だった。


 彼らは、感想欄やレビュー欄に現れる。


 物語の面白さには一切触れない。


 キャラクターの感情にも寄り添わない。


 彼らが興味を持つのは、ただ一点。


「設定の粗探し」のみ。


「この作品はダイソン球が作れる文明レベルではない」「対消滅とは本来こういうものだ」「この科学レベルで、そのような社会構造になるはずがない」


 彼らは自らを「SFファン」と信じているのかもしれない。


 あるいは、作者に対して「正しい知識」を授けてやる教師のつもりなのかもしれない。


 作品をエンターテインメント小説としてではなく、まるで論文であるかのように読み解き、赤ペンを入れる。


 いわゆる「指摘厨」だ。


 私は問いたい。


『スター・ウォーズ』を見て、「宇宙空間でビーム砲の音がするのはおかしい」と批判して、何が面白いのか。


 魔法が存在するファンタジー作品で、「火の玉を出すためのカロリー計算が合わない」と指摘する人がいるだろうか。


 いや、いない。


 そこには「魔法だから」という共通の嘘があるからだ。


 しかし、ひとたびジャンルが「SF」になった瞬間、この許容範囲は極端に狭くなる。


「Science Fiction」の「Science」の部分に過剰反応し、教科書的な正しさを強要する層が一定数、必ず湧いてくる。


 彼らにとって、SFとは「夢物語」ではなく、「科学」でなければならないらしい。


 こちとら書いているのは、あくまで「ライトノベル」であり、「スペースオペラ」だ。


 そこには、物語を面白くするための「嘘」がある。


 超光速航行も、銀河帝国も、読者にワクワクしてもらうための舞台装置だ。


 だが、指摘厨たちはその舞台装置の裏側に回り込み、配線を指差して「ここが間違っている」と叫ぶ。


 その瞬間、舞台上の魔法は解け、読者は現実に引き戻され、作者のモチベーションは冷水を浴びせられたように凍りつく。


「面白ければいい」


 それがエンターテインメントの正義ではないのか。


 指摘厨たちは、しばしば「ハードSF」の基準を持ち出してくる。


 彼らの言う「ご都合主義のない、科学的に正しいSF」も、確かに一つのジャンルとして素晴らしい。


 だが、それを「全てのSF作品」に求めるのは、ラーメン屋に入って「なぜフレンチのコースが出ないんだ」と怒鳴るのと同じ暴挙だ。


 知識をひけらかしたいだけの「幼稚なお子様」に見える。


「作者よりも自分の方が物を知っている」とマウントを取りたいだけに見える。


 その自己満足の書き込みが、どれだけ作者の創作意欲を削ぎ、筆を折らせてきたか。


 彼らは想像したことがあるだろうか。


 ***


 ここ数年、「なろう系」においてSF作品が不遇だと言われる背景には、間違いなくこの構造的な問題がある。


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 ↓新しい作家が、意欲的なSF作品を投稿する。


 ↓設定に細かい「指摘」が殺到する。


 ↓作者は修正に追われるか、嫌気が差してエタる。


 ↓「やっぱりSFは面倒くさい」「ファンタジーを書いていた方が平和だ」という空気が作られる。


 SF作品が減り、読み手も減り、ジャンルが衰退する。

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 既存のSFファン(の一部)が、新規参入してくる作者をいじめ抜いて追い出しているのだ。


 ファンタジー作品ではどうだろうか?


「ステータスオープン」と言えばステータスウィンドウが出る。


 誰もそのOSの仕組みや、投影の原理なんて聞かないし、文句も言わない。


「スライム」と言えば最弱の敵で、初心者の冒険者が倒す最初の敵。


 誰もその生物学的な代謝構造についてツッコまない。


 この「緩さ」と「お約束」の共有こそが、ジャンルの爆発的な普及を生んだと考える。


 SFも本来、そうあっていいはずだ。


 宇宙船は飛ぶし、ビームは出るし、ワープはできる。


 細かい理屈は「未来のすごい技術」でブラックボックス化して、その上で繰り広げられる人間ドラマや冒険を楽しめばいい。


 Web小説というライトな媒体であれば、なおさらだ。


 しかし、コメント欄に生息する「指摘厨」たちが、それを許さない。


 結果、Web小説におけるSFは、高度な専門知識を持ち、かつ打たれ強い一部の熟練作家以外には手が出せない「立ち入り禁止区域」になってしまった。


 だから、決めた。


 このまま彼らのサンドバッグになり、執筆の楽しさを奪われるくらいなら、耳を塞ぐ道を選ぶ。


 はじめに、作品の感想欄とレビュー欄を閉鎖した。


 カクヨム版では機能的に完全な閉鎖ができないため、「趣旨に合わないコメントは即時削除する」という強権的なルールを敷いた。


 近況ノートや活動報告で、はっきりと宣言した。


「ここはハードSFの学会ではない。フィクションを楽しめない者は去れ」と。


 これは、読者を選別する行為に他ならない。


「お客様は神様」という商売の理屈からすれば、傲慢かもしれない。


 しかし、彼らの言うことを聞く義理もない。


 そして何より、作品を純粋に楽しんでくれている読者を楽しませたいと思っている。


 コメント欄が荒れ、作者が疲弊し、更新が止まる。


 それが、楽しみに待ってくれている読者に対する一番の裏切りだ。


 だから、ノイズを遮断する。


「指摘厨」という言葉を使い、彼らを明確に拒絶する。


「SF衰退の原因はお前たちだ」と突き放した。


 私はこれからも書き続ける。


「間違い」だらけの、面白いSFの物語を。

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なぜSF小説は衰退したのか? 廣瀬誠人 @ma310

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