第1話-③
「非常に嬉しく思いますわ、フランソワ様。ほら、普段はご一緒できないものだから…わたくし、ご入学の際はフランソワ様と肩を並べて学問に励もうと、その一心で入学したのですよ。そしたら、同級生のどこを見渡してもフランソワ様がいらっしゃらないんですもの。わたくし、お身体でも崩されたのではないかと心から心配したのですわ」
「フランソワ様がお心をお病みになられていないか、アシュレイ様はいつもご心配されておりますわ」
取り巻きの一人が言った。
「その通りですわ。なんでも、魔力にお目ざめになられなかったとか」
「サイリーン、そのような口ぶりは失礼よ」
もう十分失礼ですけど?
「お心づかい痛み入りますわ」
夕飯、食べていいかしら? お腹空いてるのよね。
「なんでも、聞いたところですとフランソワ様はその…何でしたっけ。野生だか自然だかの野蛮なものを解析する…なんでしたっけ?」
「自然哲理学部ですわ、アシュレイ様」
取り巻きの一人が囁く。
「馴染みが無さすぎて、つい失念してしまいますわね」
もう一人の取り巻きが頷いた。面倒だから取り巻きAと取り巻きBでいいわ。
「そう、自然なんちゃら学部。まさかフランソワ様がそのような平民風情の学問に興味を抱かれるなんて思いもしなかったものですから、私唖然と致しましたの。ねぇ、皆さん」
ほほほ、とわざとらしい、乾いた笑いが吹き荒れる。流石に眼前で好きな学問を否定されて作り笑いできるほど、私ってオトナじゃないのよね。
「興味深い学問よ、アシュレイ。とても論理的で、理性的なの。でも、貴女には魔導真理学部の方が向いていると思うけれど」
貴女じゃ自然哲理学部の複雑な学問を理解できる知識は無いと思うし、という嫌味のつもりだったのだけれど、彼女は別の意味で(良い方向に)受け取ったみたい。
「それはそうでしょう、私、ギリアム兄さまから直々に指導を受けていますもの」
ギリアム・ランス・ド・プロヴァンスのこと。
プロヴァンス侯爵家の長男よ。ついでに学院内で最も高い魔力を持つものに与えられる、『レクター』の称号を得ているわ。ついでに学生評議会、要するに学生自治組織の会長でもある、優秀な人物よ。アシュレイと違って。
「ギリアム殿の高名は私の耳にも入っているわ。もちろん、貴女の評判もね」
「嬉しゅうございますわ、さぞかし良い評価でしょう?」
取り巻きのAとBがうん、うんと頷いたわ。嫌味が通じないのかしら。
「ええ、いい評判よ。ギリアム殿の虎の威を借る狐、実力のなさをプライドで覆い隠している、ってね」
「なんですって!」
がたん、と椅子が倒れる音。そりゃ、それだけ勢いよく立ち上がったら倒れるでしょうに。
「ぶ、侮辱ですわ、いくら公爵家と言えども許せないことがありますわ! この魔力無し!」
「貴女も私を侮辱しているじゃない。おあいこね」
「許せませんわ、許せませんわ! 私直々に成敗して差し上げます!」
どうやって、と聞こうとした声、思わずひっこんじゃったわ。
「イェンリィ・ミャオフォア」
やば。
「ウェイ・ファフゥオ、ジィジィ・ウーチィェン」
古代ロスタリア語、要するに魔法の詠唱! ちなみに間違いだらけだけど!
「アシュレイ、会食堂での魔法は!」
遅かった。
「出でよ、火弾!」
多分、アシュレイが放ちたかった魔法は炎系統の初級魔法、ろうそく程度の火の玉が飛び出す魔法なのだけれど。
詠唱を間違えたら意味がないじゃない!
ばっ、と複数の炎が上がった。中途半端だけれど、これじゃ中級魔法の環炎よ!
プロヴァンス侯爵家の名は伊達じゃないわ。基礎魔力だけは高いから、詠唱誤りを処理できずに制御が効かなかったのね、なんて冷静に考えている場合ではなくて! 私たちのテーブルを中心に、いくつかのテーブルが燃え上がったわ。大混乱よ!
「あ、あああ…」
アシュレイ、呆然としてるんじゃないわ!
「誰か! 水魔法を使える方は?」
私も立ち上がって、周囲を見渡す。咄嗟のことに呆然としている子ばっかりね! ホントお坊ちゃまお嬢ちゃまは使えないわ! 私もだけど! シャルロイド公爵家と言えば水魔法、水魔法と言えばシャルロイド公爵家なのに! せめて「水噴」くらい使えれば!
「あなた達は使えないの?」
取り巻きAとBに尋ねる。ふるふる、と茫然自失に首を横に振るばかり。期待するだけ無駄だったわ。冷静な子が数人、水魔法を仕掛け始めたけれど、それ以上に延焼の速度が早いわ。煙も出てきたし、あんまり良くないわね!
「窓を開けて!」
取り巻きAとBに指示。口をあんぐり開けたまま。
「早くしなさい!」
続けて𠮟りつけて、ようやく我に返ったように窓際へ向かった。まずは換気、煙で窒息してしまうもの。あと、私がやれることは…井戸水を汲みにでもいく? いいえ、間に合わないわ。会食堂が全焼しかねない。
どうすれば、そう思った時だった。
「チッ、面倒くせぇな」
颯爽と現れたのは黒い影だったわ。
比喩ではないの。本当に黒かったのよ、その、髪色が。まるで新月の森の中に放り込まれたような、一切の狂いもない、すべての光を吸収してしまうかのような、純粋な黒。
彼はそのまま、手のひらを天に突き出して、そして拳を握りしめた。
直後。
空気がぎゅむ、とゆがむ感じがして…一瞬で、全ての炎が消えたわ。直後に、パン、と耳鳴りがはじける。
「うそ」
私の見間違いでなければ、あれは空間魔法、もしくは重力魔法のいずれかのはず! 実戦で見るなんて当然初めてよ。第一、今のアリアでは存在が公認されていない魔法系統だし。
胸元の徽章は鉛色。特待生よ。そして何よりも。
「邪魔したな」
あの、超高度魔法を無詠唱で唱えたなんて!
「ち、ちょっと、あなた!」
思わず、追いかけようとしたのだけれど。
「何事だ!」
アシュレイの血の気が引いたわ。真っ白に。流石の私もバツが悪い…私は何もしていないけれど! 学生評議会の精鋭メンバーよ。当然、ギリアム会長もね。
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理外の公爵令嬢、魔力9999の勇者(仮)と世界を解く 〜魔法の時代は終わりました。これからは科学の時代です〜 レイジ @reizi9
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