第1話-②
ランチは遠慮させてもらったのだけれど、当然ながら学院には学食に当たる建物があるの。個人的には小売店舗が欲しいのだけれど(自室でひっそり食べたい)、『食事は社交で最も重視されるもの』という教育方針ですから、売店にあるのは筆記用具とか書籍が中心なのよ。ぜひ改善して欲しいところだわ。
ともかく、学食。
一応の正式名称は『武皇イスタルシア守護・一統平定至聖食膳大講堂』と言うわ。
王立学院の名前にもなっているけれど、イスタルシアという人は三百年くらい前の人で、王立学院の設立も彼の功績の一つなのだけど、一番の功績は当時のこの国、アリア皇国の内戦を治めて再統一した、ってこと。現皇王直系の先祖に当たる方よ。
要するにこの食堂(に限らず学院の建物は)アリア統一を記念して造られた、という事なのだけれど、長すぎて誰も呼ばないから、学食、食堂、会食堂、レストラン、一部極めて保守的かつ真面目(頭の固い)生徒限定で「食膳大講堂」とまぁ、各々自由に呼び捨てられている、ちょっと可哀そうな建物でもあるわ。
この私が渋々ながら会食堂に顔を出すのはそれはもう、背に腹は代えられないと言うか、背中とお腹がくっつきそう、と言うか、人間の生理現象には敵わないと言いますか。好き嫌いを他所に、来ないとどうしようもない、という事よ。
会食堂はそれはもう立派な造りでね、外から見たら三階建てくらいに見えるのだけれど、中に入ると巨大なホール、一番奥が厨房室、という造りで、やろうと思ったら千人規模の舞踏会も開催できる(実際に卒業の際にダンスホールとして使うらしいわ)、数百人の学院生が一斉に食事を摂れるだけのスペースが用意されているの。
座席の指定はないわ。昔、貴族しか進学していなかった頃はなんと担当付きのフルコースだったらしいのだけれど、流石に学生数が増えたから今は半セルフ方式になっているの。その日によって何種類か選べるのよ。肉料理、魚料理、パンかライスかパスタか、という具合にね。肉料理は早く行かないと売り切れるわ。
とはいえ、貴族と特待生(平民)が仲良く、身分の境なく食事を楽しんでいるか、というと、当然ながらそんなことは無いの。卑賎の者と一緒に食事などできない、という貴族連中の声が大きくて、会食堂の中央にはパーティションが立てられているわ。上座が貴族、下座が特待生、と言うわけ。分かりやすいわよね。そもそも平民の入学解禁ですら、国を二分しかねない程の議論になったというし、特権意識と言うのも困りごとね。
それでも分裂はしなかったのは、先代のエドワード皇王直々の決裁だったから。もう亡くなっているから言い放題だけれど、貴族からは暗愚王、なんて陰口を叩かれる次第よ。
ちなみに私、港町の出身だから魚派なのよね。学院だとお造りが食べられないからちょっと不満だけれど、仕方がないわ。メインの魚料理の他にライスとスープを仕入れて、いつもの場所へ。本来ならパーティションの奥、貴族連中の目が届かない場所でゆっくり食事を摂りたいのだけれど、そういう訳にも行かないのはこの徽章のせいよ。できるなら外したいわね…。
と思っていたのだけれど。
今日はいつもの場所が、別の人に占拠されていたわ。
「あら、これはフランソワ様。御機嫌よう」
今、私はとっても不機嫌になったわ。私の居場所を返してちょうだい。
とも言えず、ぎこちなく会釈させて頂きましたわ。これでも公爵令嬢なので。
相手もスカートの裾を摘まんで、完璧なお辞儀。流石プロヴァンス侯爵家の娘ね。
彼女はアシュレイ・ランス・ド・プロヴァンス。信じがたいけれど私と同学年よ。ただし、彼女が魔法専門課程である『魔道真理学部』なのに対して、私は科学専攻の『自然哲理学部』だけれど。ちなみにもう一つ、法学行政専攻の『統治法学部』という学部もあるわ。
「あら、アシュレイさん。お邪魔だったわね」
別のテーブルにしよう。アシュレイと会食なんてまっぴらだわ。
というのも、アシュレイ、同学年内の序列では私に次いで二番手になるのよ。ここでいう序列は成績ではなくて、身分の方ね。名門は名門なのだけれど、現在の学院には王族、公爵家(要するに金色バッジ)が私しかいないから(余計目立つのよ!)、彼女からしたら目の上のたんこぶ、ってわけ。私はアシュレイに興味がないけれど。
「お邪魔なんてとんでもない。私、フランソワ様をいつも案じておったのですよ」
ねぇ、と同じく同席している二人の女子に同意を促す。そうよそうよ、と大げさに同意してみせた。取り巻きってやつかしら。
「お陰様で、滞りなく過ごしておりますわ」
「それは何よりですわ、フランソワ様。ぜひ、本日は私めとお過ごしくださいませ」
「お心遣いだけ頂戴いたしますわ」
早くこのちょっと重たいトレーを置きたいしね!
という事で周りを見渡してみたのだけれど…微妙に空いていないわ。
「フランソワ様、本日は非常に混みあっておりますわ。ささ、ぜひ拙卓にお越しくださいまし」
何度も誘いを断るのは儀礼上良くないのよね。
良くないのはもちろん知っているのだけれど、できれば断りたい…。断る理由がもう思いつかないけれど。これ以上は謙遜ではなくて邪険になってしまうし、そうなるとそうなるでまた(貴族連中の噂話が)面倒だし…。アシュレイにしたらどっちに転んでも美味しいわね。最悪。
「それでは、ご相伴させて頂きますわ」
笑顔を顔に貼り付けるのよ、フランソワ。アレよ、嫌味な貴族とか豪商が社交の挨拶に来た時とか。経験あるじゃない、私って。
これも修練の一つよね、と言い聞かせて、アシュレイの誘いに応じることにしたわ。
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