第40話 古城の再会、桃園の誓い再び


​ 河北の荒野に、ぽつんと佇む小さな城があった。


 古城(こじょう)。


 主を失い、荒れ果てていたこの城を占拠し、山賊まがいの兵を束ねていたのは、あの張飛翼徳(ちょうひよくとく)であった。


​「ちっ、兄者はどこへ行っちまったんだ……」


​ 張飛は城壁の上で、苛立ち紛れに酒を煽っていた。


 徐州で散り散りになってから数ヶ月。劉備の生死も分からず、彼の心は荒んでいた。


 さらに、巷(ちまた)で流れる「ある噂」が、彼の怒りに油を注いでいた。


​「それに比べて、関羽の野郎は……曹操に尻尾を振って『漢寿亭侯』なんぞに封じられただと? ……へっ、裏切り者が。見損なったぜ」


​ そんな彼の耳に、見張り番の興奮した声が届いた。


​「注進! 前方より、一騎の武者がこちらへ向かってきます! ……あ、あれは緑の戦袍(せんぽう)に赤兎馬(せきとば)! 間違いありません、関羽将軍です! 関羽将軍が帰ってこられましたぞ!」


​ 部下たちは英雄の帰還に沸き立ったが、張飛の反応は真逆だった。


 ガシャーン!


 酒瓶を地面に叩きつけ、凄まじい形相で立ち上がる。


​「あの野郎……! ノコノコと俺の前に顔を出せたもんだ!」


​ 張飛は蛇矛(じゃぼう)を掴むと、雷のような大音声で叫んだ。


​「門を開けろォ! 俺が直々に成敗してやるッ!」

​                

​ 城門の前。


 再会を喜んで駆け寄ろうとした関羽に対し、飛び出してきた張飛はいきなり蛇矛を突き出した。


​「うおらぁぁぁッ!! 死ねぇ、裏切り者ォ!!」


「ぬっ!? 翼徳、何をする!」


​ 関羽はとっさに青龍偃月刀で受け止めたが、その衝撃に馬ごと後退った。


​「何の真似だ、翼徳! 久しぶりの再会だぞ!」


「黙れ! 貴様、曹操に降って爵位をもらったそうじゃねぇか! 兄者を見捨てて栄華を貪るような奴は、俺の兄弟じゃねぇ! 叩き斬ってやる!」


​ 張飛の誤解は深かった。


 劉備の奥方二人が馬車から降りて必死に弁明する。

​「待ちなさい、翼徳! 叔父上(関羽)は私たちを守るために、やむなく降伏したのです!」


「そうだぞ! 曹操の元にいても、心はずっと玄徳様の元にあったのだ!」


​「うるせぇ! 曹操に恩義を感じて、顔良・文醜を斬ったとも聞いてるぞ! それは曹操の犬に成り下がった証拠じゃねぇか!」


​ 張飛は聞く耳を持たない。その殺気は本物だった。


 関羽が唇を噛んだ、その時。


 北の方角から砂煙が上がり、軍勢が迫ってきた。

 曹操軍の猛将・蔡陽(さいよう)が率いる追手である。


​「見ろ! 曹操軍を引き連れてきやがった! 俺を捕まえに来たんだろ!」


「違う! あれは俺の首を狙う追手だ!」


「なら証明してみせろ!」


​ 張飛は城壁の兵士に向かって怒鳴った。


​「太鼓を叩け! ……関羽! 貴様が本当に潔白なら、あの敵将を太鼓が三回鳴り終わるまでに斬ってみせろ! できなきゃ貴様を串刺しにする!」


​「……よかろう」


​ 関羽の目に、武神の炎が宿った。


 彼は無言で馬首を巡らし、迫りくる蔡陽軍へ向かって突撃した。


​ ドンドンドン……!


 太鼓が打ち鳴らされる。


 蔡陽が槍を構えて叫ぶ。


​「関羽ゥ! 甥の秦琪(しんき)を殺した恨み、ここで晴らしてくれる!」


「雑魚に用はない。……消えろッ!」


​ 交錯した瞬間。


 青龍偃月刀が銀色の弧を描いた。


​ ズバァァァァンッ!!


​ 蔡陽の首が空高く舞い上がった。


 太鼓が一通りのリズムを刻み終わるよりも早かった。


 関羽は蔡陽の首を掴んで戻ってくると、張飛の足元に放り投げた。


​「……これで文句はあるまい」


​ 張飛は目を見開き、そして蛇矛を投げ捨てた。

 ボロボロと大粒の涙が溢れ出す。


​「すまねぇ……! すまねぇ関羽ゥゥゥッ! 俺ぁ、俺ぁてっきり……!」


​ 張飛は地面に膝をつき、関羽の足にしがみついて号泣した。


 関羽も馬を降り、涙を流して弟を抱き起こした。


​「よいのだ、翼徳。お前の直情こそがお前だ。……疑わせてすまなかった」

​                

​ その感動的な和解を見届けたかのように、城の裏手から新たな一行が到着した。


 俊樹、玲花、貂蝉、そして趙雲である。


 さらに、袁紹の元を脱出した劉備も、別ルートでたどり着いていた。


​「おお……! 皆、無事だったか……!」


​ 劉備が駆け寄ってくる。


 関羽と張飛は、主君であり兄である劉備の姿を見るなり、駆け寄って抱きついた。


​「兄者ァァァッ!」


「申し訳ありませぬ、守りきれず……!」


「いいんだ、二人とも。生きて会えた、それだけで十分だ……!」


​ 三兄弟が抱き合って泣く。


 それは、かつて桃園で誓った絆が、死の淵を経てより強固になった瞬間だった。


​ 俊樹はその光景を少し離れた場所から、温かい目で見守っていた。


 隣には玲花、貂蝉、そして趙雲がいる。


​「……いい光景ですね、俊樹殿」


「ああ。これを見るために戦ってきたんだ」


​ 俊樹は頷き、そして劉備たちの元へ歩み寄った。


​「兄上。お待たせしました」


「おお、俊樹! お前も無事か! ……それに、そちらの武人は?」


​ 俊樹は趙雲を紹介した。


​「趙雲子龍。公孫瓚殿の元にいた彼が、我々の仲間に加わってくれました。……これで『矛』は揃いました」


​ 関羽という軍神。

 張飛という猛虎。

 趙雲という銀竜。

 そして、俊樹という異能の軍師と、二人の吸血姫。


​ 劉備軍は、徐州での敗北を経て、質において最強の布陣へと進化を遂げたのだ。


​「雨は上がりましたね、兄上」


​ 俊樹が空を見上げる。


 澄み渡る青空。


​「さあ、行きましょう。次なる地は『荊州(けいしゅう)』。そこに、兄上が天下へと飛翔するための、最後のピースが待っています」


​ 劉備は涙を拭い、力強く頷いた。


​「うむ! 皆の者、出発だ! 我が覇道は、ここから再び始まる!」


​ 古城に翻る「劉」の旗印。


 最強のパーティーが再結成され、物語は三国志最大の見せ場へと加速していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

三国志演義〜転生した俺は知識と神の権能を使い劉備を王にする Ricoh @rikou2990

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画