Destiny2 魔物

 ――ありえない、こんなこと。


 廊下を走り、階段を上り、2-3の教室へと駆け込む。教室内は想像していた通りの混乱ぶりで、右を向いても左を向いても外の異様な光景にざわめいていた。


「え、なになに!?」

「街はどこに行ったの?」

「これじゃ帰れないじゃん!」


 私が自分の席に戻ると、祥が目をかっぴらいてこちらを見ていた。


「ちょちょちょ……これどゆこと!?」

「どういうこともなにも……」

「さくらは知らないの?下にいたんでしょ?」

「知るわけないじゃん」


 答えのない押し問答を繰り返していると、佐藤先生が教室へとこれまた駆け足で入ってきた。


「みんな!静かに!席に座って!」


 先生の一声で静かにはなったが、誰一人として席には座ろうとしない。


「先生!これどうなってるんですか!?」

「ちょっと!静かにしなさいよ!」


 男子の騒ぎ声を女子が諌めるいつもの光景が、非日常の中で繰り広げられる。


「先生たちもよく事態がわかっていません。今、外部との連絡を試みています」


 ――外部との、連絡?それもできないの?


 あまりにも基本的なことすらできない現状に、私は驚きを隠せなかった。


「思ったよりもヤバめなのかな……」

「多分……」


 祥の呟きに私が二つ返事で返す。


「今、中村なかむら先生が外の状況を確認に向かっています。確認が取れるまで、校舎からは出ないように」


 私はスカートからスマホを取り出し、スリープを解いた。右上に『圏外』の二文字が踊る。


「やっぱりか……」


 そう口にした時だった。


「あれ、なに!?」


 クラス委員の藤田菜七子ふじたななこが窓の外を指さした。みんなの視線が釘付けになる。


「中村先生!」


 私は思わず叫んだ。中村先生がなにかから逃げるかのように必死の形相で走っている。


 校門を通り抜け、閉めようとしている。鉄製の重たい門を。


 ――なにが起きているのか……?


 その回答は、思ったより早く、最悪の形でもたらされた。


 森林から、獣が飛び出したのだ。


 四つ足でピンク色の、しかし人のような顔を持ち、頭から一対のツノが生えている、"魔物"としか言いようのない獣が。体格が三メートルにも及ぶような獣が。


 その獣は、校門を軽々と飛び越え、そして。


 中村先生に襲いかかった。先生は一生懸命抵抗した。


 だが、なす術もないまま獣は先生の左脚に噛みつき、食いちぎった。


「ひっ……!」


 私は目を覆い隠そうとしたが、なぜか胸の奥底の意思がそうはさせてくれなかった。


 先生はそのまま地面に倒れ込んだ。獣はまるで餌と言わんばかりに先生を食い散らかした。


「ヴォエ!」


 菜七子が吐いた音が耳へ伝わる。あまりにもリアリティのない世界が、一気に現実味を帯びる。


 ――これは、現実なんだ。


 中村先生は、死んだんだ。


 教室内は狂騒ともいうべき大混乱に陥った。


「静かに!静かに!!」


 佐藤先生の声も虚しく、騒ぎは収まろうとしない。


「てか、あれ……」


 祥が私の方を向いて言った。


「あれ……こっちに……来ないよね?」


 その瞬間、魔物の目がこちらを向いた。明らかに私たちを見つめている。


「こっち、来る……?」


 魔物は背を屈め、ハイジャンプをした。爪が校舎の壁に引っ付き、落下を防ぐ。


 ――こっちに来る……!


 そのことが分かった瞬間、私たちは衝動に突き動かされるように教室を飛び出した。


 それまでクラスメイトだった人が、まるで障壁となったかのように、邪魔と言わんばかりに押し除ける。それは私も例外ではなかった。


 だが、どこに向かえばいいのか。


 私と祥は廊下をひた走った。


 ――どこへ?どこに行けばいいの!?


 答えが出る前に、それは起きた。


 ガシャン!


 廊下の窓が激しい音をたてながら割れた。ガラス片が煌めく光のように散る。


「二体目……!」


 目の前には、さっきのと同じ獣の姿があった。

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