流転のベグディアス

るろうに

Destiny1 はじまり

 うだるような暑さが窓越しに伝わり、エアコンすら負けてしまうような七月某日。昼休みが終わり、七時間目に突入した授業は、相変わらずの退屈さを誇っていた。


 ――ああ、退屈だなあ……。


 私は数学の教科書を卓上に広げながら、ぼんやりと家に帰ってからのことを考えていた。わずかな風が私の茶髪のボブヘアーを揺らし、ちょっと不快な気分になる。


 なにをやろうか。ゲームでもしようか。それとも積んでいたアニメの録画でも観ようか。でもあのアニメあんまり面白くないからなあ……。


 そんなことを考え、二分おきに壁掛けのアナログ時計を見ては絶望する。まあ、いつもの光景ではある。


 ただ、そんな"いつも"に少しの安堵感を覚えながら、多大なる混乱欲求を求めている自分がいた。


 ――ああ、なんか事件起きないかなあ……。


 なんか自分の人生をかき乱すような大きな事件。そんなものが欲しい。できればめっちゃファンタジーチックなものを。


「まあ、無駄なんだろうけどね……」


 私は小声で呟いた。隣の席にすら聞こえない小声で。


 授業が終わると、教室内はいつもの喧騒を帯びた。もうすぐ帰宅会というのに、みんな威勢がいい。


「さくら、さっきの授業のノート見せてくれない?」

「ええ?さち、また寝てたの?」

「へへへ……まあそういうことだね」


 黒のロングヘアーをの先端をくるくる回しながら、永岡祥ながおかさちは謝罪とも思えない弁明をした。いくら小学校からの腐れ縁に近いとはいえ、少しは改めて欲しい気持ちもある。


「まあいいけど、私もあんまり取れてないよ?」

「ないよりはマシだから」


 ノートを渡す。「へへっありがとう」と祥が簡単な感謝をする。


「でもさあ、なんかいっつも同じことの繰り返しじゃん?」

「へ?なにが?」

「いやさあ、いっつも似たような授業を受けて、いっつも同じ宿題やって、いっつも同じテストして……」

「まあそれが高校二年生ってもんでしょ」

「まあそうなんだけどねえ……」


 すると、校内放送が鳴り響いた。


加茂原かもばらさくらさん、加茂原さくらさん。職員室まで来てください』

「おっ呼び出し」

「ええ、ダル」


 私は仕方なく席を立ち、喧騒の中を潜り抜けた。『2-3』と札が掲げられた教室を出ると、窓の外にはいつもの住宅街があった。夏至からそんなに経ってないせいか、十六時を回ってもまだ明るい。


 職員室に着くと、担任の佐藤さとう先生が席に座ってこちらを見つめていた。先生の席は部屋の真ん中付近にある。


「あっ、加茂原さん、こっちこっち」


 手でジェスチャーする先生に釣られ、私は机の間を歩いた。三十代の男性教師の割には、声が高い。


「加茂原さん、理系か文系か決めた?」

「ああ……まだです」

「決めてないの、2-3だと加茂原さんだけだよ?いい加減決めないと」

「でも決まってないのは事実なので……」


 理系か文系か。進学か就職か。高校二年なら必ず決めないといけないことだが、私にとってはどうしようもない話であった。


 そもそも、こんな決断をたかだか高校生にさせるのもいかがなものか。


「まあ、夏休み入る前に決めときなよ」

「はーい……」


 私は無愛想な挨拶と一礼をしてから、職員室を出た。


 ――まったく……このためだけに呼び出しするなんて。


 私は廊下から再度窓の外を見た。さっきは三階だったが、今回は一階ということもあり、遠くの建物なんかは全く見えない。あるのは私立校にありがちは広めの校庭と高めのネット、それに家だけ。


「はあ……」


 思わずため息をつく。ふと、昔観たアニメの言葉が頭に浮かぶ。


 ――こんな世界。


 ――壊れちゃえばいいのに。


 その瞬間だった。


 目の前に、一筋の雷が降った。


 それだけなら普通の雷かもしれない。ただ、一点を除いて。


 今日は、快晴なのに。


「えっ?何が起きて……」


 私は窓に触れようとした。刹那、私の手に激しい刺激が走る。


「……っ!」


 私は思わず手を離した。まるで、壁が電気を帯びたようだった。


 雷は収まるところを知らず、今も降ってきている。何発もの電流が校庭を満たす。


 明らかに異常事態なのに、私の心は不思議な高揚感に満たされていた。


 ――これこそが、私の求めていた……!


 しかし、その高揚感は次の瞬間、思いもしなかった形で裏切られた。


 雷が降り止んだ時、窓の外に映っていたもの。それは、どこまでも続きそうな深い森林と、空に浮かぶ巨大な星だった。


 

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