第4話 特別クエスト
「……ここ、どこ?」
掠れた声が、闇に溶けた。
ミユは、ゆっくりと目を開ける。
天井は低く、暗い。
木と金属が混じったような、見慣れない匂い。
身体を起こそうとして、
すぐにバランスを崩した。
「……っ」
膝に力が入らない。
立ち上がれはするが、
足元が定まらず、壁に手をつく。
胸の奥が、妙に熱い。
喉が渇いているような、
満たされているような――
矛盾した感覚。
「気づいたか」
低い声。
闇の向こう、
月明かりがわずかに差し込む位置に、
男が立っていた。
赤い双眼が、
静かにこちらを見下ろしている。
「……お前は……!」
記憶が、繋がる。
暗闇。
速すぎる影。
逃げられなかった感覚。
反射的に、
一歩、後ずさる。
「私を……殺すの?」
声が、震えた。
答えは、
すぐには返ってこない。
男――トウヤは、
ほんの一瞬だけ視線を逸らし、
それから淡々と告げた。
「お前に残された選択肢は、三つだ」
指を、一本ずつ立てる。
「一つ。
ここで俺に血を吸われ続ける」
ミユの喉が、
ごくりと鳴った。
理由は分からない。
だが、その言葉に、
恐怖とは別の感覚が混じる。
「二つ。
死ぬ」
簡潔すぎる言い方だった。
脅しでも、
感情でもない。
ただの事実として、
そこに置かれた言葉。
「三つ。
逃げる」
「……え?」
思わず、聞き返していた。
「逃げて……いいの?」
理解が、追いつかない。
捕らえられている。
武器もない。
相手は、圧倒的な力を持つ魔族。
それなのに。
「あぁ」
トウヤは、
あっさりと頷いた。
「そうすれば、
下手な人類は近づいてこない」
「……どういう、意味?」
ミユは、
必死に言葉を繋ぐ。
トウヤは、
少しだけ目を細めた。
「お前たちは、もう“印”を持ってる」
「俺の血を吸われた人間だっていう印だ」
理解した瞬間、
背筋が、冷たくなった。
「……じゃあ、私は……」
「餌にされた、か?」
その言葉に、
否定も肯定もせず、
トウヤは続ける。
「安心しろ。
お前たちは、俺にとって弱すぎた」
冷たい声。
だが、
侮蔑はない。
事実を述べているだけだった。
「だから、殺す価値も、
飼う価値もない」
ミユの拳が、
ぎゅっと握られる。
屈辱と恐怖と、
そして――
奇妙な安堵。
「……だったら、なんで逃がすのよ」
問いは、
ほとんど叫びに近かった。
トウヤは、
しばらく黙ったあと、
静かに言った。
「もっと強い血が、必要だからだ」
僕は、知りたいと思ったわけじゃない。
ただ――
知ってしまった。
あの戦いで。
あの吸血で。
あの血の味で。
理解してしまった。
弱いままでは、
この先に残れない。
人類も、魔族も、
この世界に立たされた以上、
等しく削られていく。
迷った者から。
躊躇した者から。
力のない者から。
それは公平で、
残酷で、
逃げ場のない現実だった。
だからこそ――
血が、必要だ。
ただの血じゃない。
怯えて流れる血でも、
逃げ惑うだけの血でもない。
意志を持ち、
力を持ち、
この世界で生き残ろうとする者の血。
強き者の血。
吸えば、
力になる。
奪えば、
進化に変わる。
それは欲望じゃない。
嗜好でもない。
――選択だ。
衰退するか。
進むか。
人であることに縋って、
弱さのまま消えるか。
それとも、
人をやめた存在として、
先へ行くか。
胸の奥で、
焔が静かに燃えていた。
派手に燃え上がる炎じゃない。
だが、
消えない火。
「……仕方ない」
誰に言うでもなく、
そう呟く。
これは、
正義でも、悪でもない。
生き残るための、
ただの理屈だ。
僕はもう、
血を啜る理由を
理解してしまった。
次に欲するのは、
弱者の血じゃない。
――強者の血だ
そして。
ミユが去った直後、
トウヤの視界に、
再びあの文字列が浮かび上がる。
無機質な声が、
静かに告げた。
――特別クエストを確認。
――『死せるものが生きる地』
聞き慣れない、
それでいて妙に引っかかる題名。
――条件達成を確認。
受注可能です。
条件達成。
思い当たることは、
一つしかない。
吸血。
不殺。
境界の存在。
――受注しますか?
画面には、
二つの選択肢。
YES
NO
トウヤは、
しばらくそれを見つめたまま動かなかった。
これは、
単なるクエストじゃない。
世界が、
自分を“例外”として
認識し始めた証だ。
「……」
答えは、
まだ口にしない。
だが――
胸の奥の焔が、
わずかに強く揺れた。
バトルロイヤルの世界に単独殲滅者 yoU @Maybe__fireworks
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