第3区を見下ろす高層ビルの屋上。
砕けた街の喧騒が、夜風に乗って届いてくる。
その下には、僕が守りたかった《Yume》がある。芳村、響華がいる。
――そして、“人としての僕”が、確かにあった。
でも、もう届かない。
優しさじゃ守れなかった。
正しさじゃ、救えなかった。
仮面を見つめる。
黒の面に走る、ひとすじの紅――
それは祐という名の涙の跡。
祈るような怒りと、諦めきれなかった優しさの残像。
「もう……“僕”じゃ、意味がないんだ」
静かに告げて、仮面をかぶる。
それは武装じゃない。覚悟だった。
夜風が頬を撫でても、もう“祐”はどこにもいない。
「僕?……違うな」
そう言って、闇に身を投じる。
「――俺は、“吸血鬼《ヴァンパイア》”だ」
それは墜落じゃない。
過去を断ち、未来に跳ぶ跳躍。
まだ守れるものがある。まだ終われない。
ここから先は、“エンド”が生きる。
夜が、俺を迎えに来ている。