俺の妹の証拠は、まちがっている。



「さぁ、お兄ちゃん。観念して早く認めた方がいいと思うよ。そうすれば私だって鬼じゃないし、謝ればちゃんと許してあげるつもりだからさ」


「……はぁ」


 謎の上から目線な寛大さを見せ付ける妹の態度に、俺はただただため息を吐くしかなかった。そもそもの話、こんな馬鹿馬鹿しいことで口論するのも時間の無駄でしかないからな。


「……で、証拠は?」


「お兄ちゃん、まだそんなこと言ってるんだね。往生際が悪いよ。正直に認めちゃえば、すぐ楽になれる―――」


「だから、証拠を出せ。話はそれからだ」


「……」


 俺が強めの口調でそう言うと、さっきまでの調子の良さが嘘であったかのように、妹はピタリと固まった。まるで時が止まったかのような硬直っぷりである。


「……い、いいの? 証拠なんて出しちゃったら、お兄ちゃんはもう、認めるしかないんだよ……?」


 そしてしばらく経ってから、妹は恐る恐ると言った感じで俺に確認してきた。その顔には冷や汗が流れていた。


「いいから早く出せ。出さない、もしくは証拠が無いというのなら、この話は終わりだ」


 俺はそう言ってからすくっと立ち上がり、これ以上の交渉の余地は無いことを態度で示した。それを見た彩華は焦ったように、俺の服にしがみついてくる。


「ま、待ってよ、お兄ちゃん! だ、出すから! 証拠を持ってくるから、ちょっと待って! ……けど、ホントにいいの!? 後悔しない!?」


「くどいぞ。いいから早くしろ」


 必死に訴えかける妹の言葉をバッサリ切り捨てると、妹は慌てて俺から離れていく。その際に俺の手に握られていたバスタオルを回収し、身体に巻き付けてからリビングを出て行った。


 まぁ、どうせろくな証拠を持ってこないだろうが、一応は聞くなり見るなりしておくか。次の予防線にもなるだろうしな。


「待たせたね、お兄ちゃん!」


 そんな風に考えていると、程なくして彩華が戻ってきた。流石に着替えてきたのか、俺のおさがりという体で強奪したぶかぶか過ぎるパーカーを着ており、そしてその手にはスマホが握られていた。


「これが浮気の証拠だよ!」


 そう言いながら妹は見せつけるように画面をこちらに向けて、とある写真を表示させる。


「……これがそうなのか?」


「そうだよ! この間の学校帰りに偶然、そう偶々! 見つけて撮影したの!」


「……」


「こうして女の人と仲良くしてる証拠写真がある以上、これで言い逃れはできないよね!」


 勝ち誇った顔で言い放つ彩華を前にして、俺は改めて写真を眺めた。そこには確かに女性が写っていたのだが……。


「……はぁ」


 それを再確認したところで、俺はもう何度目か分からないため息を吐いた。正直、予想通りすぎて逆に拍子抜けしてしまうレベルのものだったからだ。


「これ見てどう思う? 誰がどう見ても立派な浮気現場だよ!」


「そうだな」


「そうだよね! 認めるしかないよね! じゃあ、お兄ちゃん。今こそ浮気をしてごめんなさいって、ちゃんと謝ってよ!」


「断る」


「えっ!?」


 きっぱりと断言した俺に対して、彩華は驚愕の表情を見せた。


「ど、どうして? 認めて謝ったら許そうと思ったのに……」


「そんなの、謝る必要が無いからに決まってるだろ」


「へっ……?」


 俺があっさりと返すと、彩華は一瞬ポカンとしていたものの、すぐにハッと我に返って騒ぎ出した。


「そ、そんなの納得できない! なんで!? だってこれ、正真正銘の浮気現場じゃん!」


「そもそも浮気だ浮気だとお前は言うが、俺は誰とも付き合ってないんだから、浮気もクソも無いだろうが」


「私という愛すべき存在がいるでしょ!? 酷いよ、お兄ちゃん!」


「はっ倒すぞ、お前」


 何故か憤慨する彩華に向かって、俺は吐き捨てるように言った。こいつは一体、何を言っているんだろうか。頭が痛いったらありゃしない。


「じゃあ、仮にお前がそういう相手だったとしても、これは浮気の証拠にはならん」


「なんでっ!?」


「当たり前だろ。この写真に映ってるやつ、うちのマネージャーじゃねえか」



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2026年1月14日 08:04

シスター☆クライシス3~完全無欠のS級美少女である妹は、実兄の俺のことが好きらしい。~ 八木崎 @phoenix_yagisaki753

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