2曲目 奇妙な感覚

「ぐ……」


 俺は意識を取り戻す。

 目の前に広がるのは、森の中のようだ。


「俺は……生きてるのか?」


 目が開いて、周辺の景色を見ることはできる。だが、体を動かすことはできない。

 あれだけの崖の上から落ちたんだ。生きてるだけでも儲けだろうな。


「おーい、ベス、芽露、弩羅夢! 生きてるか?」


 俺は仲間たちの名前を呼ぶ。ところが、誰の返事もしない。

 あそこの道は数十メートルの崖だったからな。俺以外はくたばっちまった可能性が大きい。

 だからといって、俺はそう簡単に諦められるわけがないんだよ。

 今すぐにでもあいつらを探しに行きたいが、本当にまったく体が動かない。このまま救助隊を待つしかねえってわけか。

 俺は仕方なく、その場で待機し続けることにした。


 ところが、いくら待てども、救助隊がやってくる気配はなかった。


(はあ? どうなってるんだ。これだけ明るくなっていれば、事故があったことくらいは誰かが気が付いて通報してるはずだろうが。くそっ、元日だからって休んでじゃねーぞ?)


 あまりにもおかしな状況に、俺はとても腹を立てていた。

 確かに、あんまり車の通らない道かもしれないが、さすがにスピンかましたバカヤローがいるんだ。警察なり救急なり呼んでなきゃ、大罪だぞ、ゴラァッ!

 俺は怒り心頭になりながらも、とにかく待ち続けた。

 だが、待てども待てども、誰かがやってくる気配はなかった。

 いや、それよりも周りの状況がおかしいことに気が付き始めた。

 俺たちが走っていた山道は、雪が結構降って積もっていたんだ。だというのに、周りに見える状況を見る限り、雪が積もっているようにはまったく見えなかった。

 それにだ。俺たちの乗っていたはずの車も見当たらない。いくら放り出されたといっても、車が見えないなんてことはあり得るだろうか。


(何かがおかしい……。一体ここはどこなんだ?)


 さすがの俺も、いろいろと疑い始めた。

 それからしばらくしてのことだった。


 ガサガサ……。


 なにやら草をかき分けるような音が聞こえてくる。

 やっと救助隊が来たのか?

 誰かがやって来たみたいで、俺はつい期待をしてしまう。ところが、そこで姿を現したのは、予想もしない人物だった。


『は?』


 俺の前に姿を現したのは、少し変わった感じの服を着た、中学生くらいの少女だった。見た感じ、いとこの中学生によく似ている。

 少女は驚いた顔で俺のことをじっと見ている。そりゃそうだ。血まみれの男が倒れてりゃ、誰だって驚くってもんだ。


「なに、これ……」


(は?)


 俺は少女が発した言葉に耳を疑った。発した「これ」という単語のせいだ。

 これなんていう指示語を使うのは、物に対していう時だ。

 おいおい、どういうことだ。俺は物じゃねえ、まぎれもない人間なんだ。ふざけんな!


『おいこら、そこのガキ! 俺に向かって、なんてことを言いやがる!』


 俺が思いっきり怒鳴り散らすと、少女はびっくりして周りをきょろきょろとしている。


『おい待てこら。目の前の俺の姿が見えねえっていうのか?!』


 頭に来た俺は、もう一度少女に向かって怒鳴り散らす。

 どうやら今度はきっちりと分かったらしく、少女は俺の方を見る。だが、その表情がおかしかった。

 何か、得体の知れないようなものを見るような顔だった。まあ、俺の格好は確かにおかしいけどよ。そんな顔をされるような服装はしてないはずなんだよな。

 まったく、どんな教育をしてるんだよ。親の顔が見てみてえぜ。


「なによこれ……。この変な道具が喋っているの?」


『はあ? 道具? 何を言ってんだ。俺は人間だぞ!』


 少女は俺を見て、道具とか言い放ちやがった。どこをどう見たら、俺のことが道具なんて結論になるんだよ。まったく、信じられねえガキだな。

 さすがに俺はブチギレていた。

 ところが、少女はだんだんと俺に近付いてくる。おいおい、こいつはとんでもない怖いもの知らずだな。

 俺が睨みを利かせていても、少女はお構いなしだ。

 次の瞬間、俺は違和感を感じた。


『おい、どこを見てるんだ。俺の目はここだぞ!』


「目? 目って、どこにあるの?」


『どこって、お前と同じで顔についてるだろ、ふたつも!』


「顔?」


 少女は俺の顔が分からないらしく、不思議そうにしながら首を傾げている。

 はあ? 俺の顔がどこか分からねえのか?

 くそっ、落下したショックでいろいろと変形しちまったのかよ。最悪だぜ……。

 少女にまったく理解してもらえないようで、俺はさすがに参っちまったぜ。これは一体どうしたらいいっていうんだよ。

 俺が大きなため息をついた時だった。周りの空気が急に張り詰めた感じがした。


(な、なんだ……。この感覚は!)


 あまりにも不思議な感覚に、俺は鳥肌のようなものが立った気がした。


「アオーーーンッ!」


 かと思えば、犬の遠吠えのようなものが聞こえてくる。

 野生化した犬が、血のにおいをかぎつけてやって来たのか?

 今は冬だし、餌が足りなくて飢えているだろうから、十分あり得る話だ。


「うそっ……。なんでこんなところにウルフが来るのよ。この辺りは、警備隊の人が毎日見てくれてるっていうのに……」


 ウルフだと?

 確か、漫画や小説なんかで見る、犬みたいなやつのことか。

 ここで俺の頭に不意にある言葉がよぎる。いやいや、それはさすがにないだろう。現実にそんなことがあってたまるかよ。

 混乱する俺だったが、そばに立つ少女が予想外な行動に出た。


「来るなら来るといいのよ。ここにちょうどいい武器があるみたいだから」


 なんと、少女が俺の頭をつかんだのだった。

 って、頭ってこんな形してたか?

 ふとした疑問が浮かんだ瞬間、俺の体が急に光り始めたのだった。

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