異世界バンド

未羊

1曲目 すべての始まり

 ははっ、実に最高だな! 魔王相手に最っ高のライブをしてやろうじゃねえか!


 俺たちの目の前には、重く垂れこめたどす黒い雲に覆われ、常に雷が落ちている真っ暗な風景が広がっている。

 その中に、俺たちが目指す場所があった。


「あれが魔王城か。ついにここまで来ちまったんだな!」


「ふふふふ……。私の腕が鳴るというものです」


「俺様の魂のスティック捌きを見せてやるぜ!」


「俺たちは覚悟はできてますよ、リーダー」


 俺の仲間どももいる。観客は魔族っていう連中だが、まあそれはどうでもいい。


「おっしゃーっ! 行くぜ、てめえら!」


「あいあいさーっ!」


 俺たちは、魔王城へと向けて突進する。



 さて、俺たちがなんでこんなことになっているのか。

 それは、とある年越しの日にまでさかのぼらなきゃいけないな。


 あれは忘れもしない、元旦の夜明け前のことだった。


 その時、俺たちはライブハウスで大みそかのライブを行った後のことだった。


「ヒャッハーッ! やっぱ、こういう特別な日のライブは最高だな」


 こう叫ぶのは、俺たちのバンドのベースギターを担当する米須義多べいすぎた。ベスって呼んでやってる。

 鶏のような赤いとさか……モヒカンが特徴的なやつで、俺の幼馴染みの悪友だ。


「それにしても、そろそろ年越しですね。リーダー、どうしますか?」


 落ち着いた様子で話し掛けてくるやつは、キーボード担当の喜以保芽露きいぼめろだ。紫に染めたロン毛で丁寧な言葉遣いが特徴だ。


「日付変わる前にそばにしましょうぜ。年が明けたら、カレーを食いてえぞ」


 食い物ばかりの話をするスキンヘッドは打弾弩羅夢だだんどらむ。結構食ってばかりなせいで、ちょっとメタボ体型になってきている。

 だが、こいつのおかげで俺たちはあんまりケンカになることがない。ムードメーカーみたいなやつだ。


「そうだな。じゃ、コンビニでも寄って、そばでも買うか。この時間じゃ、開いている飲食店なんて限られてるからな」


「しゃーねーなぁ、リーダー」


「そばを食べるのなら仕方ありませんね。カップ麺では味気ないというものですよ」


 俺たちは片付けを終えてライブハウスを出ていく。

 運転席に弩羅夢が座り、助手席に俺が座る。

 おっと、俺がまだ名乗っていなかったな。

 俺はこのアマチュアバンドのリーダーで暮軽利威度ぼかるりいどっていうんだ。みんなからはリーダーって呼ばれている。

 知名度はいまいちだが、インディーズ界隈じゃそこそこの頻度でライブが開けるくらいには知られている。

 まだまだ世間的には無名だが、いずれ世界規模で有名になってやる。


 年越しそばを無事に食べ終えた俺たちは、コンビニの駐車場から出て、夜の街を再び走り始める。


「で、リーダー」


「なんだよ、ベス」


「このあとはどこに行くんですかね?」


「はっ、決まってんだろ? 初の日の出を拝みに行くのさ」


「ってことは、海に行くんですかい?」


 義多の質問に答えると、運転している弩羅夢が反応してくる。

 だがな、水平線から見やすいから海ってのは安直だ。俺はもっと高みを目指してるんだ。ならば、行先はひとつだろう。


「山のてっぺん目指そうぜ。海の見やすい山のてっぺんをな」


「分かりましたよ。ただ、さっきまで降り続いていた雪のせいで、路面がとんでもないんで、ちょっと時間かかるかもしれませんよ」


「日の出までに間に合や、文句はねえ!」


「あいあいさーっ!」


 行き先を決めた俺たちは、とにかく山を目指して車を走らせる。

 暗い時間だっていうのに、さすがは大みそかだな。すれ違う車の量がいつもよりも多い。どいつもこいつも、海を目指して走ってるんだろうな。

 途中で年が明けちまったので、山に登る前に適当な神社に寄って初詣を済ませておく。

 願い事だぁ?

 当然、世界で一番ビッグなロックバンドになることに決まってんだろ。言わせんじゃねえよ。

 今はまだ無名だが、絶対に高みに登り詰めてやるぜ。


 俺たちの乗る車は、いよいよ山道へと入っていく。

 俺たちが知っている限りでは、こいつが一番海に近い高さのある山だ。本当は半島部分にある山がいいんだが、あそこは一般人はそうそう入れねえからな。

 ある程度山に入った頃だった。


「なんか、寒気がするな」


「リーダー、なんかまた勘が働いてんですかい?」


「ああ、こう強く身震いがした時は、大概、悪いことが起きる。弩羅夢、気を付けて運転しろよ」


「分かってますって」


 雪の降った後で、まだ路面には雪が積もっている。俺たちはちゃんとチェーンを巻いて山に入ったんだが、さっきから寒気が止まらねえ。一体何が起きるっていうんだよ。

 その答えは、意外と早く分かった。

 だいぶ標高が高くなってきたせいか、辺りには雪がちらつき始めた。


「降ってますね」


「なに、構うこたぁねえよ。天気予報は晴れなんだから、きっちり見えるさ」


 俺は頂上へ向けてのドライブを強行する。ベスたちは心配そうな声を漏らしているが、俺は予定を変更するつもりはない。ここまで来たんだから、今さら引き返せるかよ。そんな場所もねえしな。

 もう少しで、頂上付近の駐車場に到着する。そういう場所のカーブに差し掛かった時だ。ついに事件が起きちまった。


「うわぁっ?!」


「げっ、スピンしてやがる」


「あのタイヤ、ノーマルですよ」


「バカか?! なんでそんな状態でここまで来てんだよ」


 俺たちの目の前に、カーブで制御を失った車が、回転しながら突っ込んできやがった。

 この真っ暗な中で、芽露のやつ、よくタイヤが見えたな。

 だが、感心している状況じゃねえ。このままじゃぶつかっちまう。


「うわぁっ!」


 いつもは冷静な弩羅夢が、慌ててハンドルを切る。

 よりにもよって崖の方向だ。

 俺たちの乗った車は、そのままガードレールを突き破り、崖へと飛び出してしまう。

 くそっ、年明け早々、なんでこんなことになっちまったんだ!

 崖下へと落っこちた俺たちは、衝撃の強さのあまり、そのまま意識を失ってしまった。


 このままで、終われるかよ……。

 俺たちは、世界一のバンドになって、やるんだからなっ!

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