Episode2 祓魔師と代行者

赤い月が照らす夜、学生寮の入り口から人影がふらりと舞い出た。

その虚ろな目で歩き出したかと思えば門へ差し掛かる...そしてよじ登るべくそこへ手を掛けようとした瞬間に気配を感じて振り返った。

暗闇から現れたのは茶色の髪をした修道女で凛とした佇まいで見つめていた。


「そこで止まりなさい神崎さん。そこから先へ出る事は許しません 」



「貴女はシスター・マリア......。何故です?門限の時刻は未だ超えていない筈 」



「そうではありません。私は貴女がのを止めに来たのです 」



「......どうして? 」



「旧校舎の教室にあった魔法陣...それから数名の女子生徒の写真とカッターナイフ。それから変わり果てた警備員2名の遺体......以上から察するに貴女はと私は考えています 」



「あぁ...そういう事ですか。どうか邪魔しないでもらえませんか?私はアイツらを...殺したい程に憎んでいるんです......アイツらが無様に地べたを這いずり回り、私に許しを請う愚かな姿を見せるまではどうか...見逃してくれませんか? 」



「...随分と愚かで浅はかな考えですね。まだ貴女は戻れる...貴女が望さえすれば元の姿に──ッ!? 」


話していた最中に飛んで来たのは門の装飾品として使用されている鋭利な棒。

それを紙一重で躱すとマリアは素早い動作でデザートイーグルを引き抜いて差し向けた。


「...元の姿に戻るだと?ふふふッ...バカな事を言う。折角、力が手に入ったんだ...使わぬ手はあるまい?そうだろう人間ッ──!! 」



「ッ...!! 」


即座に発砲するがその弾丸の掃射を躱しながら飛び掛かる、それに対しマリアは

後方へ宙返りし躱すと的確に右足と左胸を撃ち抜いてみせた。

静花の身に付けていたジャージが赤く染まるがそれでも致命傷には至る事はなく

傷が塞がっただけだった。


「くッ、やはり頭部でなければ...!! 」



「ふふふッ......そうとも。だがお前に私が倒せるか?小娘!! 」


憑依した悪魔を倒す為には手段が幾つか存在する。


・1つは憑依した対象を物理的に攻撃し引き剥がす


・1つは聖書に記述されている術式を用いて分離させる


・1つは聖水や聖油、聖香による浄化


・1つは十字架ロザリオや銀の釘、ストーラを使用する


など。

だが主に用いられるのは物理的な攻撃による強制排除、

というのも近年では一部の方法が通用しない者や

大した効果が得られないといった理由が大きい。

それもあってかこうした物理的な手段による悪魔祓いが

有効とされているに過ぎないのだ。


「先ずは手始めにその喉を切り裂き...貴様の血で我が渇きを潤そう。その後は邪魔な服を剥ぎ、柔らかそうな肉を味合わせて貰おう...ッ!! 」



「...下劣な!! 」


地面へ棒の先を擦りながら火花を立てて間合いを詰める、真下からの攻撃に対し

身体を仰け反らせて躱す。咄嗟に反撃しようとしたが右手へ向け振り翳された棒が命中し銃器があらぬ方向へ飛んでしまう。


「さぁこれで終了フィニッシュぅううッ──!! 」


刺突の要領から繰り出された一撃が確実にマリアの胸元を捉える、

これが刺されば当然だがただでは済まない。先端が差し迫る中で

彼女は右手を勢い良く空へ向け振り上げた。

何の為にそうしたかは直ぐに判明する、気付いたのは静花の方。


「...!?おい小娘、貴様...一体何をした!? 」


マリアの胸元に突き刺さる筈の

いや...無くなっているという表現が正しい。串刺しになる筈だったが

ならなかったのだ。直後に鈍い音がして離れへ視線を移すとそこには

切断された先端部が転がっていた。


「...我は神の代理人なり。我は神罰の代行者なり。我の使命は神に逆らう愚者を地上から滅しその肉片すら残さず絶滅させる事なり 」


俯いたままの彼女をよく見ると右手の袖口から先へ銀色に輝く刃を持つ白色の柄をした剣が握られている。続いて黒い柄の剣が左側の袖口から現れると

それらを用いて十字を生み出した。


「貴様ぁ......ッ!! 」



「──神罰、執行 」


消えた。目の前から修道服を着た少女が。

眼前に現るはその少女、振り下ろされた左手の剣が残りの棒を勢い良く

斬り裂いてそれを役に立たない単なる棒切れにしてしまう。

舌打ちした瞬間、右手に持つ剣が静花の右肩を貫き、穿った。

飛散する血液...苦悶の表情と共に漏れる呻き声の様な悲鳴。

そして持ち主の持つ碧眼の眼差しは鋭く...そして冷たい。


「っぐぁ...ぐぅうッ......こ、このぉッ......!!」



「次は...その下劣な口か?それとも逃げる為の足か?それとも低俗で下劣な思考を持つ頭か?さぁどうして欲しい......答えろ、化け物!! 」


刃が引き抜かれ、血に塗れたそれが差し向けられる。

静まり返った空気の中で極度の緊迫と緊張が走る...あの大人しい

マリアの姿は今や何処にも無い。静花が動いたと同時にマリアもまた動き出した。


「ちぃい...ッ!! 」



「ッ──!! 」


静花が後退し門を跳躍し越える瞬間、MaC10を2梃を引き抜いて発砲し左足の脹脛を穿つものの着地がままならず相手が落下、それでも強引に逃走を図ると闇夜へ消える。

マリアもその後を追って暗闇へ消えた。

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結來が真冬と別れ、街中を散策していると彼女が持つ端末が鳴る。

上着のポケットから取り出して確認すると要件を確認しそれを再び

しまった。


[そのダルそうな表情...追加の任務か? ]



「そうだよ。主人マスターの命令は絶対...逆らえないもの 」



[働きモンは辛いな ]



「でもそれで奴等を少しでも多く駆逐出来るなら良い…その為にあたし達は存在しているんだから 」


結來がそう呟いて歩みを進めると彼女は途中にあった自販機で水を購入する、そしてラベルを剥いでゴミ箱へ捨ててから今度は十字架を取り出して宛てがうと何かを施した。


[読めたぜ、お前さんの考え ]



「先回りして消耗させ、弱らせる…そうすれば多少なりとも引き離すリスクは減ると思って 」


得意気に笑うと彼女はクロに居場所を探ってもらいながら街中を突き進む、そしてビルが建ち並ぶ路地裏へ差し掛かるとそこを抜けて裏手にある住宅街へと足を踏み入れた。

街灯がポツポツと照らしている中を進むと数軒先の住宅の辺りで足を止め、上を見上げる。


「……まだサンタクロースの時期には早いと思うよ、お嬢さん? 」


屋根の上に居たのはお下げ髪に対しジャージを着た少女、彼女の掛けている眼鏡が反射した光と瞳のせいで赤く光る。


「何者だお前は……私の…私の邪魔をするな… 」



「…名乗る時は先ず自分から名乗るのが礼儀マナーでしょう…まぁ忘れてそうな見た目してるけど 」



「生憎お前と戯れている暇は無い…私は私の目的を── 」


少女が向き直ったと同時に銃声が轟き、弾丸が

窓枠の縁へめり込んだ。


「…それ以上近付くな 」



「近付くなだと?ふざけた事を抜かす…私はこの家に住む女に用が有るのだ。貴様には無関係の筈!! 」



に決まってんじゃん…悪いけどお前は此処で消える。まだ魂が持っていかれてないなら簡単に引き離せるだろうし 」



「ふん...ならばどうする? 」



「答えは端から決まってる...ッ! 」


軽い助走で器用に塀へ飛び乗り、そこから間髪入れずに跳躍し

屋根へ飛び乗る。そして結來は銃口を差し向けながらゆっくりと

歩きながら間合いを詰めようとしていた。


「お前...さっきの女の仲間か? 」



「仲間?何の事か解らないけど...あたしはあたしの仕事を全うさせてもらうだけ!! 」


 駆け出すと共に即座に発砲し、軽く跳躍すると身体を空中で後方へ反転させ

左足を繰り出すと共に後ろ回し蹴りを放つが躱される。

距離を取った少女が屋根から跳躍し地面へ降り立つとそこへ向けて発砲し

攻撃を仕掛けるも逃げられてしまった。


「また追い掛けっこ!?ッ...面倒臭い!! 」


結來はそのまま屋根伝いに駆けて少女を追い掛ける、

途中で曲がった事から今度は屋根から降りて追跡しその後を追い続け

逃げ込んだのは廃材が置かれているスクラップ置き場の中。

薄暗い中を結來が足を踏み入れて進んだと同時に左側の暗闇から少女が現れて

手にしていたチェーンソーを振り翳して来た。


「死ねぇええッ!! 」



「あっぶな!? 」


それを辛うじて躱し地面へ仰向けに倒れた状態で発砲するが照準が定まらず

弾丸は壁面へ当たった。そして今度は振り下ろしが来れば身体を右へ転がし躱して

から立ち上がって同時に発砲、それが左肩と右脇腹へ命中し仰け反った。大きな音と共にチェーンソーが落下するとそれが動かなくなる。


「ぐッ...!?おのれ...!! 」



「...あのさ、一旦休憩しない?ほら水あげるから 」



「ふざけているのか!? 」



「取り憑いているその子が可哀想でしょ。憑依した人間の魂を完全に定着させなきゃ生身の状態と変わらないんだってば 」


右手の銃をしまってから今度はペットボトルの水を取り出し見せびらかすと

少女は何かを躊躇った様な動きを見せ、後に右手を差し出して来る。

それに対し彼女はそれを放って相手が受け取る瞬間に左手の銃でそれを射抜くと

ペットボトルが破損し中身がぶちまけられるとそれが彼女へ雨の様に

降り注ぐ。突如として少女が悲鳴を上げて苦しみ出す様を見て

結來は笑っていた。


「......ぷッ!くッくくくッ、バーカ!単なる水な訳ないじゃん、それも祓魔師エクソシストから貰う水がさ? 」



「お、おのれ...小娘...図ったな!? 」



「これで半分と少しは成功...。それの中身は当初は単なるペットボトルの水、でも神に仕える者がちょーっとお祈りすれば水が聖水に早変わりする。知ってるでしょ、だってこと!! 」


差し向けられた銃口、そして再び右手に銃を構えた結來は左腕を自身の前で内側へ向けて右腕を真っ直ぐ突き出し構えていた。だが気配を感じた結來が入口へ視線を向けると修道服姿の別の少女が真っ直ぐ歩いて来る、その左右の手には剣が握られていて2人を見据えながら歩みを続けていた。


「あ、あの小娘...もしや先程の!? 」



代行者エクスキューター...?要するに向こうの獲物って訳か。祓魔師にも代行者にも目を付けられてた...これで本当にお前は終わりだよ 」


足を止めた少女が十字架を描く様に構えた直後、結來はその場から飛び退く。

すると急に姿が消えたかと思えばおさげ髪の少女が地面へ倒れては巻き込まれぬ様に彼女を結來が抱える、引き離された悪魔は黒い筋肉質の身体と赤い目を輝かせながら

マリアの方を見て焦りを感じていた。


「くそぉッ...!俺は死なぬ、何としても...何としても、もう一度── 」



「...言い残す事はそれだけか? 」



「何...? 」



「それ以上何も無いのなら── 」


風切り音が鳴った瞬間、悪魔の持つ両腕が切断され宙を舞った。

斬られたのは肘から先で赤黒い血液が噴き出す。苦悶の表情を浮かべると

右側の耳元で聞こえたのは先程の声でそれも感情は一切籠っていない冷徹な物だった。


昇天ね 」


首が宙を舞った。

荒らしく肉を削ぎ落すのではない、バターを切るナイフの様に

鋭く...そして繊細な一閃が通った。

背を向けて倒れる様な形から悪魔は消滅しその後には何も残らず

沈黙だけが訪れた。


「...聖水での弱体化のお陰で迅速に執行出来ました。感謝致します 」



「別に良いよ。それよりその子は? 」



「...私が連れて帰ります。貴女は機関へ報告を 」



「了解...それじゃ 」


結來は銃をしまってからその場を立ち去り、マリアもまた

静花を抱えて学校へと戻って行った。

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警察本部。そこの警視総監が居る部屋でテーブルを挟んで向かい合う形で

腰掛けているのは白と黒のゴスロリ服の様な物を着た金髪の少女で黒いリボンで

ツインテールに結んでいる。対するは60代後半の小太りの男性で机に置かれた書類を見て固まっていた。その中で少女が何処か幼さのある凛とした声で話し始めた。


「内容は先程ご説明した通り...銃刀法の規制を解除、並びに兵器類の持ち込みを一次限定的に許可して頂きたいのです。物部警視総監様 」



「で、ですがそれは...! 」



「...この程度の事で判断を拱いていては自国民が大勢犠牲になりますわよ? 」



「んなッ...!? 」



「近頃多発している連続失踪事件、猟奇的殺人事件...その全てにヒトならざる者達が関与している。そして彼等は留まる事を知らない......ご存じでしょう?イギリスの博物館に展示されていた...それから気味の悪い事件が多発している事も 」


彼女は白いティーカップを手にすると中身の紅茶を一口だけ飲んだ。


「......わ、我々警察には市民を守る義務がある!その程度の事は規制を解除せずとも──!! 」



「...その正義感ある警察が役に立たないからわたくしが来ているのでしょう?相手にするのは凶暴な動物でもなければ、連続殺人犯シリアルキラー精神病質者サイコパスでもない...少しは現実を見たら如何?高そうな椅子、高そうな家具、名誉、地位、富など...幾ら持とうがそんなのは状況が変わればゴミと同等...上からでは下の景色はハッキリ見えない。そう申し上げた迄ですわ 」



「私をバカにしているのか!? 」



「いいえ...私は貴方の判断に期待しているのです。我々を受け入れ、最善を尽くさせて警察と国のメンツを守り抜くか...それとも受け入れずに自分達で対処し犠牲を増やした挙句、信頼を地の底へ失墜させ反感の的になるか......もし後者であればあの椅子に二度と貴方は座れなくなるでしょう 」


脅しとも言える内容を口にした少女は判断を渋っている彼を見て

更に続ける。


「さぁ警視総監様...ご決断を。時は有限であり無限ではないのですから 」


そして沈黙が続いた末に物部という男は1つの決断を下した。

返事を聞いた少女は頷くと共に部屋を後にすると廊下で待っていた上下黒のタキシードに対し白髪持ちで年配の男性の元へ訪れる。


「イリヤお嬢様、交渉の結果は如何様で? 」



「...成立よ。後は此方で動くだけ...他の祓魔師達にもそう伝えて頂戴 」



「畏まりました 」



「...奴の復活、そして配下の下僕達も動き出している......ヴァチカンの総本部がどうにか対応しているけれど、それもどうなる事やら 」


彼女はそう呟くと窓から見える夜景を見て僅かな溜息を吐く。

この戦いは未だ始まったばかり...終わりはまだ当分先であり見える筈がない。



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鷹眼の祓魔師(エクソシスト) 秋乃楓 @Kaede-Akino

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