最終話 名前を残したまま

部屋は、

いつもと変わらない。


鞄を置いて、

灯りをつけて、

椅子に座る。


あの夜の音は、

もう鳴っていない。


ドラムも、

声も、

誰かの呼吸も。


静かだ。


それでも、

この静けさは、

前と同じじゃなかった。


鞄の中から、

紙切れを取り出す。


折り目は増えている。

文字は、

少しだけ擦れている。


書き足さない。

消しもしない。


一人では出せない音がある。

でも、

一人で抱えていていい時間もある。


終わったわけじゃない。

始めるわけでもない。


それでも、

これは確かに、

自分の音だった。


灯りを消す。


窓の外は、

夜でも、

朝でもない色をしている。


名前を付けないまま、

そこに在る。


――


青は、まだ

名前を失っていない

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青は、まだ 縷々 @_ru_ru_

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