ずれてる天才少女
「全員、配った用紙は確認したな?今週末までに提出するように」
それだけ言ってすたすたと教室を出ていく先生。私の手には『卒業後進路』と書かれた用紙が握られている。
五年通ったこの学園もあと一年でおさらば。寂しいものだね。
「シュミットはどうするんだ?」
近くに座っていたフィンくんが話しかけてくる。
「いろいろとあてはあるんだけど決めきれてないんだよね。冒険者ギルドの職員とか悪くはないんだけど」
スカウトは来てるから行くところは困らないんだけど、どれもピンとこない。流石にそろそろ決めないと。
「案外、ちゃんと考えてるんだな」
「ちょっと、酷くない?私これでも先生からの覚えはいいんだから」
「……」
ちょっと何その目は?猫被るの得意なんだからね。
「フィンくんはどうするの?」
「まだ決まってないんだよな。何していいかわからなくて」
まあ、結構そんなものだよね。学園の中にいても外のことはあんまわからないし。
フィンくん気が利くし、実用的な魔術をたくさん使えるから。どうにでもなると思うけど。
「エルマはどうするんだ?」
「もう決まってる」
エルマちゃんはいつも通り本を読みながら答える。
エルマちゃんほど優秀なら引く手数多だろうね。それこそ、どこへでも行けると思う。
「対策研究院」
あまりにもサラッと出たその言葉に私とフィンくんは凍り付いた。私たちの知ってる限り、そんな名前の組織は一つしか存在しないから。
「なあ、エルマ。それは大陸魔王対策研究院のことか?聖王国のど真ん中にある」
「そう」
この国どころか各国の超エリートが集まる人類の最前線みたいな場所。ちょっと雲の上の話過ぎて理解できない。
「スカウトされたの?」
「半年くらい前に」
優秀な子だとは思ってたけど、まさかそこまでだったなんて。びっくりし過ぎて開いた口が塞がらない。
ただ一つ気になることがある。私は別にいいけど、どうしてフィンくんまで一緒に驚いてるのかな?
「なあ、半年前にスカウトされたんだよな?俺、その話を初めて聞いたんだが」
ずっと一緒にいたのに、相談もしなかった。馬車で半月かかるような遠い場所に行こうって言うのに。
「どうして話してくれなかったんだ?」
多分、フィンくんは傷ついてる。というか実際顔がそう言ってる。
「……準備する時間が欲しかった?」
不思議そうにエルマちゃんは言ってる。確かに心の準備は必要だけど。
「そうじゃない。相談してくれても……。いや、せめて話を聞かせてくれるだけでも」
「どう考えてもあそこが一番の場所。選択の余地がない」
エルマちゃんは断言した。確かにそれは、疑いようのない事実だった。
「そうか……」
フィンくんは項垂れたまま教室を去っていった。
「ちょっと、エルマちゃん。いくらなんでもあれは酷いよ」
「どうして?」
エルマちゃんは不思議そうに首をかしげる。
「聖王国に行くんでしょ。下手したらフィンくんともう一生会えなくなるかもしれないんだよ」
エルマちゃんの肩を抱いて揺さぶる。でもなぜかわかってくれない。
「どうして?」
「どうしてって……」
「フィンも一緒に行くのに」
「ん?」
今日二度目のフリーズが起こる。エルマちゃんの言葉が理解できない。
「どういうことかな?」
「私は研究員。フィンはその助手。そういう条件で受けた」
この子は何を言っているの?
「もうちょっと詳しく説明して」
「フィンが一緒じゃないと嫌。そう返事したら、それでいいって」
この子、人類最高の研究機関からのスカウトに条件出したの?もう一人追加で雇えって。
どれだけ肝が据わってるの。
……いや、そんなことよりも。
「じゃあ、どうしてフィンくんは知らないの?」
「フィンが私について来る。当たり前のこと」
そんな太陽は東から上ります、みたいな調子で言われても。
「朝起きるのも、本を運ぶのも、お風呂に入るのも。一人じゃ無理。フィンは絶対必要」
「そうだけど!確かにそうなんだけど!」
わかってるならなぜそれを言わないの。
「マイヤー家には手紙を送った」
「どうして親御さんに話して本人には伝えてないの⁉」
この子、コミュニケーション下手過ぎる。
「フィンくん、エルマちゃんが一人で聖王国に行くと思ってるよ?」
「どうして?」
「それはこっちの台詞だよ!」
やっぱり天才ってどこかずれてるのかな?
「それは困る」
「だったら、今すぐ誤解を解いてきなって」
「わかった」
エルマちゃんはそのままぼてぼてと歩き出した。大丈夫かな?
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ブラックコーヒー片手に眺めましょう 羽国 @hanekoku_353312
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