ブラックコーヒー片手に眺めましょう
羽国
プロローグ
王立魔術学園。お偉いさんが必死こいて建てたこの学校には、バリエーション豊かな人材が集まってる。
魔術よりも婚活に必死な下級貴族。責任ある職に就くまでモラトリアムを楽しむ上級貴族。
その中でも私のおすすめはあの二人。見ごたえがあってとても面白い。
「うんしょ、うんしょ」
まずは一人目。初等部(十二~十四才)かと思うほど小さな同級生、エルマちゃん。
雪原のような銀色の髪にルビーのような紅い瞳。とても平民出身には見えない美少女。
でも、その見た目に反してこの学園の中でトップ中のトップ。既に何本も魔術論文を提出してる本物の天才。
授業を無視して、いつも本を読んでる。平民出身であれは才能としか言えないよね。
十冊以上の専門書を持ちながら教室に入ってくる。グラグラと揺れて今にも落ちて来そう。
でも教室の人間は誰も心配しない。だって、付き人がついてるって知ってるから。
「こら、エルマ。そんなに持ったら危ないだろ」
「あ、フィン……」
エルマちゃんの後ろから現れたのはこげ茶色の髪をしたあまり特徴のない男の子。フィン・マイヤー君。
いつもメイドさんみたいにエルマちゃんの後ろをついて歩いてる。下級とはいえ、一応貴族なんだけど。
「でも、読みたい」
「だったら俺に言え。それくらい持ってやるから」
そのままフィン君はエルマちゃんの持ってる本を取っちゃった。
「ありがと、フィン」
「気にするな、もう慣れたもんだ」
ぶっきらぼうに言うフィン君。素直じゃないけど、いい子なんだよね。
「いや~、微笑ましいですな~」
まるで子供の恋愛を見ているような気分。二人とも私と同級生だって言うのに。
ちょっとちょっかいかけてみようか。
「やあやあ、フィンくん。朝から仲がいいですな~」
フィンくんが机についたのを見計らって話しかける。
「シュミットか」
でもフィンくんはご機嫌斜め。もう友達六年目だって言うのに名前で呼んでくれない。
「いつも言ってるじゃん。ヘレーネでいいってば」
「女子を名前呼びって。婚約者でもないのに、誤解されるだろ」
まるでお爺ちゃんみたいなことを言うフィン君。かわいいな~。
「そんな固いこと言わないでさ~。だいたい、君と私が誤解されることなんてないって」
「どういう意味だよ?」
「だってフィンくんにはエルマちゃんがいるじゃない」
朝も昼も授業後も。ずーっとフィンくんはエルマちゃんの後ろについてる。
何もないって言う方が無理あるよ。
「……俺とエルマはそんなんじゃない」
そっぽを向くフィンくん。でも、お顔が紅くなってるぞ~。
「同級生みんないつ付き合うんだって噂してるんだから~。進展あったら教えてよ、フィンくん」
どんどん顔が紅くなっていくフィンくん。やっぱり弄りがいがあって楽しいな~。
恥ずかしがって丸々背中に人差し指でとんとんと指す。
「ヘレーネ、うるさい。本読んでる」
私の裾がぎゅっと握られる。その手は隣の席で本を読んでいたエルマちゃんのもの。
変わらない表情に代わって、手の力が彼女の機嫌を伝えてくれる。
「ごめんごめん、お邪魔しちゃったね」
読書もフィンくんとの時間も。お邪魔虫はさっさと退散しましょうか。
「じゃあね~。あとはお若い二人でごゆっくり~」
「お前は俺たちの母親か!」
失礼だな~。君たちと同じ、十八歳の女の子だよ。
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