第3話
鳥の鳴き声にハッとして目が覚める。
空はまだ暗いが星々は疎らで、大きな月もその輝きが弱まっていた。
焚き火は消えかけており、その前でエルマが座ったまま
眠たそうな眼(まなこ)をこちらに向けている。
「おい、エルマ」
俺が声をかけると、彼女は少し目を見開いた。
「……起こすの、忘れてた」
「三時間どころか一晩中起きてたのか」
エルマは視線を逸らした。少し頬が赤い。
「寝ようと思ったけど、眠れなかった」
「そうか」
責める気にはなれなかった。昨日のことを考えれば無理もない。
少し減った水を補充するついでに川で顔を洗い、
馬の近くに降ろしていた荷物入れから携帯食を取り出した。
「食べられるか? 俺の分も十分にあるから遠慮は要らないぞ」
「ありがとう」
彼女は素直に受け取った。二人で黙々と食事をする。
「時間にはまだ余裕がある、出発の準備は問題ないから少しでも眠れ」
「……ごめん、助かる」
「寝過ごしたのは俺の問題だ、こっちこそ悪かったな」
流石に一睡もしないのは長旅に響くと考えたのか、
先に食べ終えたエルマは外套に身を包み、休んでくれた。
今日の宿が少し心配だが到着までには余裕がある。
ギリギリまで寝させてやろう。
俺は周囲を見回し、異変がないことを確かめる。
夜が明けきる前の森は静寂を保っていて、昨日の出来事が嘘のようだった。
もう一度、横になっているエルマを確認してから、
近くの木に繋いだ馬に水をやりにいった。
夜露で湿った鞍を拭い、近くに置いてあった荷物を確認する。
馬は小さく鼻を鳴らしたが、昨晩からずっと大人しくしてくれている。
俺は感謝の言葉をかけ、そっと首を撫でた。
――「じゃあ行くか」
「ええ」
エルマが昨日よりも慣れた動きで馬に跨る。
「ネフェルラントまで、あとどれくらい?」
「順調にいけば昼過ぎには着くはずだ」
「そう」
馬がゆっくりと駆け出す。まだ低い太陽を背に、俺たちは街道を進んだ。
昨日の緊張感は薄れ、どこか穏やかな空気が流れている。
「ねえ、テト」
「ん?」
しばらく進んだところで不意に、エルマが口を開いた。
「あなた、本気で迷宮に潜るつもり?」
「ああ。その為にネフェルラントに行く」
「迷宮の探索は危険だって聞くけど……。
昨日のゴブリンなんかより、ずっと強い魔物もいるんでしょう?」
「わかってる。まずは地道に浅層で力と経験を身に着けるつもりだ」
「本当にわかってる?
昨日みたいな無茶をしてたら……、命がいくつあっても足りないのに」
らしくない、少し感情の乗った強い口調だった。
「心配してくれるのか?」
「……別に。ただ、命を粗末にするような人が嫌いなだけ」
少し不機嫌そうな声でそう言うと、エルマは俺の背中をぎゅっと掴んだ。
俺は小さく笑った。
「気をつけるよ」
ネフェルラントの迷宮(仮) マルモティウスの胃袋 @XDiiii
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