第2話
薪のはぜる音に混じって、テトの寝息が聞こえてくる。
エルマは焚き火に薪をくべながら、
彼と出会うまでのことを反芻していた。
朝、宿を出たときは何事もない旅になるはずだった。
迷宮都市ネフェルラントで魔術師としての知識と経験を深める。
そのための覚悟はしたつもりだったけど、
それは少し甘かったのかもしれない。
旅慣れた様子の三人組の冒険者。
数年ぶりに故郷を訪れた帰りだと嬉しそうに話していた商人夫妻。
一人旅を心配して親切にしてくれた御者の老人。
口数の多くない彼女は、挨拶程度の会話しか交わしていない。
それでも彼らの顔が脳裏に浮かんだ。
エルマは自分の手を見つめた。
あの瞬間、全力で魔術を放った。
だがホブゴブリンは倒れなかった。力が、足りなかった。
「……私が、もっと強ければ」
小さく呟いた言葉は、夜の静寂に吸い込まれていく。
ふと、無邪気そうなテトの寝顔が目に入った。
あの男は何者なのだろう。
迷宮に挑むためにネフェルラントへ向かう途中だと言っていたが、
あの状況で一人で飛び込んでくるなど、正気の沙汰じゃない。
でも……彼が来なければ、私もあそこで死んでいた。
『もう少し自分の命を大切にするべき』
つい数時間前、自分で言った言葉を思い出す。
本当は、感謝の気持ちでいっぱいだった。
ただ、どう伝えればいいのかわからなかった。
エルマは再び炎を見つめた。
明日、ネフェルラントに着いたら別れることになるだろう。
それでいい。それが普通だ。
だけど――
彼女は小さく首を振った。余計なことを考えるべきではない。
焚火の音とともに、ただ時間が過ぎていった。
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