創造の欠片 side ΘΕΑ (Thea)

side Zero の「私」が書いたかもしれない物語


登場人物

リア: 新米の創造女神。見た目年齢は16歳程度、銀髪に淡い光を纏う

双葉湊音の残響: 地球で若くして亡くなった少女の魂の欠片。実体はなく、声と記憶のみの存在



§1 Prelude

虚無の中で、リアは膝を抱えていた。

彼女が創った最初の世界は、わずか千年で崩壊した。大陸は割れ、海は蒸発し、生まれたばかりの生命たちは、声を上げる間もなく、静かに消えていった。

「何が……足りなかったの?」

神には感情がない。それが掟だった。創造主は、ただ法則を定め、秩序を与え、見守るだけ。


だが――。

虚空に、ふいに旋律が流れた。


 ――Air

『あぁ 夜の静寂 星は』


透明な、けれど確かな祈りを孕んだ声。

リアは顔を上げた。音楽など、聴いたことがなかった。神には不要なものだったから。


『青い夜の果てに 星は落ちる』

『命は静かに揺れ 時を超える そして 光り続け!』


歌声は、遠い遠い世界から届いていた。地球という名の、青い星。そこで一人の少女が、命の最後に紡いだ歌。

リアの胸に、初めて「何か」が生まれた。

温かくて、痛くて、切なくて――。

「これが……"祈り"?」

彼女は理解した。

自分の世界に足りなかったもの。それは法則でも秩序でもなく――願いだった。生きたいと願う心。誰かを想う心。失っても、なお光を信じる心。

リアは決めた。

もう一度、世界を創ろう。

今度は一人じゃなく、この歌声の主と一緒に。


§2 Choral

リアは時空の狭間に手を伸ばし、歌声の源を辿った。

地球。21世紀。ある少女が、病室で最後に録音した歌。

彼女の名は――データには残っていない。ただ、声だけが、祈りだけが、時を超えて彷徨っていた。

「ごめんなさい。あなたはもう、魂として完全には残っていない。でも――」

リアは、その歌声の残響を、記憶の欠片を、そっと掬い上げた。

光が集まり、少女の輪郭が現れる。淡い青い髪。柔らかな瞳。だが、実体はない。彼女は「声」そのものだった。

「……わたし、は……?」

「双葉湊音。地球であなたを、そう呼んだ人がいたみたい」

湊音の残響は、ゆっくりと周囲を見渡した。

「ここは……どこ? わたし、死んだはず……」

「虚無の淵。時間も空間もない場所。でもね――」

リアは初めて、微笑んだ。ぎこちなく、けれど確かに。

「わたしと一緒に、新しい世界を創りませんか? あなたの歌が教えてくれたの。世界には、"願い"が必要だって」

湊音は静かに、リアを見つめた。

「わたしの歌が……?」

「うん。あなたの祈りが、時を超えて、わたしに届いた。だから今度は――わたしたちで、命が輝ける世界を」

湊音の瞳に、光が宿る。

「……わたしでよければ」

二人の手が、触れた。

虚無が震える。

そして――新しい世界の、最初の音が響いた。


§3 Fuga

新しい世界には、青い空があった。

風が吹き、丘に草が生え、やがて小さな生命が芽吹いた。

リアは法則を、湊音は祈りを編み込んだ。

秩序と願いが調和する世界。

「ねえ、リア」

「なに?」

「この世界にも、いつか終わりは来るのかな」

リアは少し考えて、頷いた。

「うん。でも――終わりがあるから、みんな必死に生きるんだと思う。その輝きが、美しいんだって、あなたの歌が教えてくれた」

湊音は微笑んだ。

二人は丘の上に座り、新しい世界の夜明けを見守った。

どこかで、誰かが歌い始める。

それは、時を超えた祈りの、続きだった。


おしまい

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亡き王女のためのパヴァーヌ Felis S. Catus @Felis_S_C

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