第2話

翌朝。

外は相変わらずの銀世界だが、昨夜の吹雪は少しだけ勢いを失っていた。

視界がある分、絶望がよく見える。最悪だ。

「さて、宿泊代の代わりに小屋の掃除でもしてやりたいところだが……生憎と、掃除用具より先に食料を探さなきゃならん」

俺は凍えた手を擦り合わせ、外へ踏み出す。

「出発だ、ピップ。豪華な朝食が待ってる場所までナビゲートしてくれ」

「了解しました。直進100キロ先に、氷漬けのベリーがあるかもしれません」

一拍。

「あ、ちなみにその前に凍死する確率が98%です」

「そいつはありがたい。2%も希望があるなら、宝くじよりマシだ」

俺たちは腰まである雪をかき分け、銀世界の探索を開始した。

歩くたびに体力と体温が削られていく感覚がはっきりとわかる。

数時間後、切り立った氷の岩場に差し掛かった。

少しは風を凌げそうだ――そう思った、その時だ。

「ツルペクトーーーッ!!」

鼓膜を直接引き裂くような、奇妙で不快な叫び声が岩場に反響した。

「……おいピップ。今、なんか『ツルペクトー』とかいう、ふざけた鳴き声が聞こえたんだが」

俺はゆっくりと周囲を見回す。

「俺の脳が寒さでバグったか?」

「いいえ。あなたの脳は元からバグっていますが、今の声は現実です」

ピップが、妙に楽しそうな声で続ける。

「上を見てください。……運がいいですね、朝食の方から会いに来てくれましたよ。もっとも、食べられるのは『あなた』の方ですが」

嫌な予感しかしないまま、俺は顔を上げた。

岩壁の上に――それはいた。

高さは三メートルはあろうかという巨体。

姿形は、どう見ても「巨大なニワトリ」だ。

だが、その羽毛は氷の刃のように鋭く尖り、

鋼鉄のように太い脚の先には、岩をも削る鉤爪。

何より、焦点の合っていない血走った眼球が、不気味にこちらを捉えていた。

「……マジかよ」

「ツルペクトー!」

次の瞬間、巨鳥が岩の上から飛び降りた。

地響きと共に雪が爆ぜ、白い粉塵の向こうに巨大な影が立ち塞がる。

目の前に現れたのは、巨大な――

**焼き鳥(予定)**だった。

「待て待て、落ち着け。俺は鶏肉は唐揚げ派なんだ。お互い、歩み寄れるポイントがあると思わないか?」

「無駄ですよ」

ピップが即答する。

「あれは氷原の暴君『アイシクル・コック』。知能指数は、あなたの今の体温並みです」

「低すぎないか?」

「ええ。つまり、話を聞く気はゼロです!」

巨大ニワトリが鋭い嘴を大きく開き、俺の頭を丸呑みにせんと突き出してきた。

「おいピップ! こいつの弱点は!? もも肉か!? 胸肉か!?」

「その手に持っている『鉄の塊』を、奴の喉奥に叩き込む勇気があるなら」

一拍。

「……どこでも弱点になりますよ!」

「了解だ!」

俺はサッと拳銃を引き抜き、

迫りくる巨大な影の懐へと飛び込んだ。

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白銀戦争 脳筋ツキネ @Turiia

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