白銀戦争

脳筋ツキネ

第1話

……最悪だ。神様、設定ミスだぞ。俺は『南の島のバカンス』を予約したはずだ」

俺は震える手で、自分の頬をパチンと叩いた。

痛い。夢じゃない。

視界に広がるのは、ロマンチックなホワイトクリスマスなんて生易しい代物じゃない。

全方位が殺意に満ちた白銀の世界。吐く息は一瞬で凍り、睫毛には霜が降りている。

さっきまで俺は、暖かい部屋でカップラーメンにお湯を注いでいたはずだ。

3分待つ間に異世界転移なんて、インスタント食品より展開が早い。

「おまけに、記憶があるのが逆に辛いぜ。こたつとミカンの素晴らしさが、今の俺を精神的に追い詰めてくる……」

膝まで埋まる雪を漕ぎ、ようやく見つけたボロい狩猟小屋へ転がり込む。

「お邪魔します。家賃は後払いでいいかな?」

返事はない。

代わりに、隙間風がヒューヒューと鳴って、冷たい拍手を送ってきた。

凍える指先を無理やり動かし、棚を物色する。

出てきたのは、今にも折れそうなサバイバルナイフと、博物館に飾ってあってもおかしくない古い拳銃。

「おっ、いいじゃん。残弾は……3発か」

弾倉を外し、覗いて、ため息。

「こんなんじゃチュートリアルもクリアできねぇぞ」

その時だ。

小屋の隅に転がっていた木箱が、ガタ……ガタ……と規則的に揺れた。

中から、何か硬いものが擦れるような音がする。

「なんだ? ネズミか? 今の俺なら、空腹すぎてネズミでも絶品ランチにできるぞ」

「……随分と騒がしい『お肉』ですね。そんなに喋ると、肺の中まで凍りつきますよ?」

木箱の蓋がひとりでに開き、中から浮かび上がってきたのは――

手のひらサイズの球体型ロボットだった。

デジタルの目が、小馬鹿にしたようにこちらを見ている。

「うわっ、喋る目玉だ」

「失礼ですね。私はピップ。この銀世界の案内人にして、あなたの唯一の『知的な友人』になる予定の者です」

「友人? 悪いが俺の友達はもっとこう、柔らかくて温かい奴が多いんだ。お前、触ると冷たそうだな」

「ユーモアのセンスは20点。生存確率は……今のところ0.02%ですね。おめでとうございます、絶滅危惧種以下のレアキャラですよ」

ピップは空中でくるりと回り、俺の懐にある拳銃へ細い光を当てた。

「銃の扱いは? 弾を無駄にするのが趣味なら、今すぐ自分を撃つのをオススメしますが」

「安心しろ。ゲームじゃ百発百中だったんだ。……コントローラーがあればな」


頭が軽くこんがらがってきた

一旦、現状整理でもしよう。

こんなピップ(バカ)を相手してらんねーしな。

「……というわけで、俺の今の全財産は、この錆びたナイフと、3発の弾丸、そして口の悪い目玉ロボット一個だ。どう思う、ピップ。俺は今、世界で一番不幸な大富豪になれそうか?」

「ユーモアだけなら100点。資産価値としてはマイナス100点ですね。おめでとうございます、トータルで完璧なゼロです」

その夜、俺とピップは小屋で見つけたカビ臭い毛布を分け合った。

ピップは「私は熱に弱いんです」と文句を言いながらも、俺の首元でカイロ代わりになってくれる。

最悪な一夜だった。

だが――不思議と、まだ冗談を言えるうちは、死ぬ気がしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る