第2話 出航

 カン、カーン、港から鐘の音がした。

「まもなく出航します~」


 港の近く宿を取っておいて良かった。

 慌てて私は、身支度をする。

 ベッドに寝ていた女の子も何事かと身体を起こしてくる。

「楽しかったわ」

 私は、お小遣いと宿代を彼女に渡すと、窓から飛び降りた。


 青く澄んだ空の中、私は疾走し、桟橋を渡る。

 そして係に促されながら、船に乗り込んだ。


 出航にぎりぎり間に合った。

 乗船すると、すぐに船が岸を離れた。

 だんだん町並みが小さくなっていくのが見えた。


 こんな船に乗るのは、何度目だろう。


 ガタンと船が揺れた。

 手すりを掴みなおそうとする肘を掴まれた。

「大丈夫ですか?お嬢さん」

 振り返ると大柄な騎士服の男がいた。

「だ、大丈夫です、ありがとうございます」

 私は、そう言いながら、自分の油断を反省する。

「私は、ダリウスという」

「キルシュと申します、騎士様が私なぞに手を…」

 私は礼をしたのは、舌を噛みそうになったから。

 それと自分が、町娘の衣裳をしているのを確認する。

 ポケットにあった、ダサいヒマワリのペンダントを掛けておく。

 騎士様からは、胸元の開きから、ああ、見えてるし、見られた。

(まあ、いいわ)


「ところで、キルシュ、お前は、乗る船を間違えていないか?」

「えっ?」

「この船の名は、ヴァル=ノクティス号で、大金持ちのノクティス侯爵の私船だ」

 乗船時確認したかと言えば、していない。

「乗船を予定していた定期船は、故障で修理する事になったらしい」

 ダリウスさんの説明は続く。

「たまたま寄港していたノクティス号で、運んでやろうかとノクティス侯爵がおっしゃったので、私はそれに甘えさせていただいた」

「どうしましょう」

 冗談抜きに、どうしましょうだわ。

「キルシュを冬の海で泳がすのは、忍びない。付いてきなさい。私からもお願いしよう」

「よ、よろしくお願いします」

 こりゃ、ダリウスに遊ばれるかなぁ~

 そんな事を思いながら、船が揺れに合わせてダリウスの腕にしがみついた。

「旦那様は、今、お休みでございます」

 船長の侯爵とは、会えなかったけれど、航海士の執事が、私の乗船を許可してくれた。

「若くて美しい女性なら、船長も断りますまい」

「あ、ありがとうございます」


 サテアが顔を少ししかめ、シルヴァンが大笑いするのが見える。

(わかってるわよ)

 この私が、女を全面に出している。

 腕を絡ませて、胸を当てているのだ、わざと。

 この騎士殿にも、下心はあるだろう。

 それでも私への気の使いようは、無碍にできない。

(昨晩、遊んでおいて良かった~)


 ダリウス様は、私を連れて、船をあちこち案内してくれる。

「ありがとうございます」

 見上げると、帆が風を捉えて膨らんでいる。

 船の長さは、小舟が七、八隻分くらいで、三本マスト。

 彼いわく、中型船だそうだ。船の中央には日除けの天幕が張られ、デッキが広い。これは大勢で食事をするためかな。それと船員が思ったより少ない。これは魔石を効果的に配置しているのだろう。

 船室は、調理室は分かったけど、寝室は、夜になったら、ダリウスが優しく教えてくれるだろう。

 騎士殿が私を連れて歩いてくれることは、本当にありがたかった。

 私一人だと、平民扱いで誰からも見下されるところだった。

 騎士殿のお手付きとなれば、内心はともかく、それなりに話をしてくれる。

 そうでなかったら、最悪の船旅になるところだった。

 それを仲間にこぼすわけにはいかない。

(意地を張らずに寂しいって言えば、馬車で一緒に行ってやったのに…)

 奴らに笑われるのは、間違いないもの。

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