第3話 寸劇を喰らう
お昼ご飯も、ダリウス様にご相伴させていただいた。
そもそもノクティス侯爵の私船なので、当然一切メニューがない。
と言うか、侯爵も何も考えずに”よっしゃ船出したる!”だったのかもしれない。
私と違って私船を承知で乗船した人は、貴族あるいは、お金持ちがほとんどって感じ。彼らのお付きの者が、ちゃんと機転を利かせて手当しているのよ。例外は、ダリウスくらいかな。
彼らが連携して、この船旅を侯爵をはじめ各々の主人を楽しめるよう動いているのが分かる。あとは執事さんの言ったとおり、私くらいの美女がいさえすれば―――そこまでは言ってないか。
これは皆で、侯爵を王様として、かりそめの宮廷の縮図を作ろうという本能?そうよ本能だわ。ここでも階級社会の再現をしたいらしい。そう言うの貴族は本当に好きねえ。
さしずめ、私は地方豪族の娘で騎士様に憧れて、宮廷にまで紛れこんだって役柄になるのかしら。
そんな事を思っていると、何やら数個の木箱が運ばれてきた。
騎士様の顔を見たけど、知らないという顔をして笑った見せた。
(なにがはじまるのやら)
食事をとっていたテーブルが取り払われ、椅子は向きが船首へと変えられた。
私とダリウス様は、椅子の後のマストの根元に手をかけて成り行きを見ている。
「寸劇が始まると思うよ、たぶん演目は…」
ダリウスの口を私は指で抑えて、首を横に軽く振った。
彼は、私の手首を取って、悪かったと小声で言った。
(これは、まずかったか)
日の光が帆を透かし、私、そしてダリウスの顔を流れた。
「いい顔だな、今夜、教えてほしいな、力になれるかもしれない」
ダリウスは私の腰に軽く手を回した。
(そう言えば、目的地は同じだったわ、使えるかもしれない)
甲板中央では、貴族のお付きたちが即席の舞台を作っている。
木箱を積んで、バルコニーね、少し傾いている。
「これは、さすがに分かりやちゅ……むぅ」
私は、笑顔でダリウスを見たら、いきなり両手で顔を抑えられた。
そして、私の意見は、重ねた唇で…
「ああロミオ、どうしてあなたはロミオなの」
張り上げた声に皆が拍手をしている。
私には舞台が見えなかった。ダリウスしか…
(なんて大胆なヤツ、シルヴァンならやってそう…)
いつしか私は前を向かされ、ダリウスに拍手をするように促される。
“ロミオ役”の青年が胸に手を当て、誇張した身振りで叫ぶ。
「名など、波に流せばよいのだ!」
「ここでは、洒落にはならんな、その台詞」
私は彼を見上げた。
“ジュリエット役”の貴族が木箱の上でバランスを崩しそうになる。
周囲が慌てて支えるが、寸劇は続行される。
しかし、ジュリエットの台詞が違った。
木箱をバンと踏み鳴らして、こっちを指差してこう叫んだのよ。
「観劇するフリをして、騎士様と貴女、濃厚な接吻をなさりましたよね」
観客が一斉に私達へと振り向いた。
「ああ、貴女の熱演に絆されてな!」
ダリウスの返しに、拍手と歓声が起こった。
私は、彼の横でスカートを指で摘まんで会釈をして見せた。
それ以外、なにができる?カーテンコールはしないわよ。
それから、少しの間、私達は、宴席の真ん中にいた。
寸劇を演じた二人には、本当に悪い事をしたわ、いや、したのはダリウス、私は唇を奪われただけ?吸ったかって、はい、少し…
殿方には、賞賛されたけど、ご婦人方には嫌われてしまった、口元が”娼婦”とか、”はしたない”、それ以上の言葉も読めた。
(それは、しょうがないわね)
一発、ビンタでもすべきだったかもしれないけど、もう遅い。
太陽が、もうすぐ海に沈む。
私は船首からそれを見ていた。
もう宴会はとっくにお開きになっていた。
「近いうちに主役やってくれたまえ、衝撃的なの」
「船を降りたら、絶対言わないから、皆、参加したがってる」
寸劇の依頼が来てしまった。船旅の最後って、いつもこんな感じなのだろうか。そもそも参加って何? まあ、船の上なら、確かにバレにくい。
(貴族様の遊びってやつね)
「寸劇の演出で話がしたい御仁に夕食を誘われたよ、当然、キリュシュお前もだ」
少し前から甲板を叩く足音もしていたから分かっていた。ダリウスだ。
「甲板にいる人達見てますよ」
「怒ってるのか?」
「それほど、初心ではありません、ただ…」
「ただ?」
ダリウスは私を後ろから抱きしめた。
「私の背中に、聖剣が当たっております」
ダリウスが大爆笑した。
「これは失敬」
そう言いながら、私の手をとった。
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