第7話 女神教をよろしく

 僕は自分のキャラクター設定を考えた。

 なにを言っているのかと思われるかもしれないけど、ここはゲーム世界だからね。

 自分の立場を決めることで、前世の記憶と・・・つまり日本生まれの学生としての記憶と、ゲーム世界の常識を混同しなくて済む。


 それが、こちら。


「女神さまは、

 終わりなき争いの連鎖を悲しんでいます。

 ですから、僕の種族はエルフでなければ、ドワーフでもなく、まして魔族でもありません。

 創造神である女神さまに神命を与えられて、

 この世界に降り立った神の使徒なのです。

 レッドガンはその証拠。

 これは創造神の加護を受けた、

 神将の武具です。僕はその担い手です」

「う、うーむ、それは、まことですかな?

 にわかに信じがたい話であるが・・・」


 村の生き残りをまとめる村長が、

 難しい表情でうなった。


 ・・・という話だよ。

 バカみたいに設定破綻した世界観で、

 超越的な権能を振りかざすのであれば、

 神の使徒という設定がふさわしい。


 ふつうこういうキャラは敵だけどね?

 村人Aがすごい武器を手に入れた結果、

 新興宗教を立ち上げたくらいに思っておくのが、理解としては簡単かな。

 演技ごっこ遊びは意外と楽しい。

 だから僕は女神の使徒として振る舞う。


「信じようと信じまいと事実は変わりません。

 心優しい女神さまの願いに従って、僕はこの世界から争いの原因を根絶するつもりです。

 どうか平和のために、

 みなさんの力を僕に貸してください」


 具体的には食料と金銭と寝床の支援を・・・

 そんなふうに現実的な話を続けようとしたところで、村人のひとりから怒声が上がる。


「みんなだまされるな!!!

 そいつは野盗だけでなく、村人も殺していたぞ!!! そいつの発言はでたらめだ!!!」


 おや、まともなやつもいるんだな?

 上辺のインパクトで誤魔化されず、

 きちんと考えを持てるひとは好印象だ。


 だけど今は邪魔だね?

 余計な話をしないでくれるかな?


「謝罪します。僕はこの地に降り立ったばかりで、裁くべき者を見誤ったのです・・・

 しかし、戦わず見捨てていれば、この村は滅びていたでしょう。その点を理解して、僕の言葉を認めてはいただけませんか?」

「ぐっ、それは・・・その通りだが・・・」

「女神さまは戦争を悲しんでいます。

 もちろん僕も同じです。

 約束します。

 戦いが終わった暁には、

 女神さまの加護によって、

 罪なきすべての魂は楽園へと導かれます。

 みなさん、どうか僕に力を貸してください」


 まあゲーム世界だからね?

 0と1のデジタルが根本なら、

 死んだ者はデータの海に還るだけだろう。

 天国も地獄の裁きもありはしない。

 ある意味で最高にお気楽な世界観だよ。


 さて、どうかな?

 村人の中には疑う者もいたけれど、

 レッドガンの威力は現実に示されている。

 野盗の軍団を木っ端微塵に粉砕したのだから、その事実は認めざるをえないはずだ。


「なるほど、承知いたしました。

 使徒さま、あなたの名前を

 お聞かせ願えませんかな?」


 まとめ役の村長が、話を進めてくれた。

 年配のひとは話が早くて助かるよ。


「黒咲レイジと言います。

 どうかレイジと呼んでください」

「使徒レイジさま。

 滅びゆく村をお救いくださり、

 ありがとうございました。

 ご覧の通りのありさまで、

 ロクな接遇もできませぬが・・・

 私どもは使徒さまの恩に応えます。

 宿を用意しましょう。

 どうぞごゆっくり、

 戦いで疲れた身を休めてくださいませ」

「こちらこそ、ご理解に感謝します。

 あなた方の善良な魂は、

 必ずや楽園へと導かれるでしょう」


 無難に話が終わろうとした時・・・

 しかし村の若者が僕に食ってかかる。


「待て! 使徒レイジ、

 あなたが本当に女神の使徒であるならば、

 女神の名前を答えられるはずだ!!!

 エルフの森の守護神でもなく、

 ドワーフがあがめる土地神でもなく、

 魔族を統べる大邪神でもないのであれば、

 その名前を答えてもらおうか!!!」


 疑い深いね〜

 仮に僕がウソをついても、

 真偽を検証する術がないだろうに・・・


 論客めかせてみたいお年ごろなのかな?

 詭弁家の相手はしたくないけど・・・


 でもそういえば、女神の名前って?

 聞いたことがなかったな。

 誤魔化そうと思えば誤魔化せるけど、

 使徒が女神の名前を知らないのは、

 確かに不都合だ。聞いてみようか?


(ねえ、女神さん、教えてもらえるかな?)

「ふふっ、えー、どうしようかな〜」

(もったいぶるな。急いでるんだけど?)

「ひっ!? ご、ごめんなさい。

 えっと、私はキセキと言います。

 奇跡ミラクルではなくて、

 アーチを描く方の軌跡きせきです」

(素敵な名前だね。僕は好きだな。その名前)

「も、もう、からかわないでください・・・」


 女神キセキが照れ照れと恥じらった。

 女神と言いつつ日本名なんだな?

 まあ他人の名前なんて、よっぽどのキラキラネームでなければ、なんでも良いけどね?

 

「お待たせしました。お答えしましょう。

 世界の創造神であらせられる

 女神さまの名前は・・・キセキ。

 キセキ・ビブレストさまです」

「なんだその珍妙な名前は!?

 ふざけているのか!?」

「キセキとは神の言語で、

 天空にかかる虹色の橋を意味します。

 雨上がりにかかる虹のように、

 誰にも触れられず、誰の手も届かない。

 この地に生きるすべての者を見守る・・・

 おかしい話はなにもありません」


 ふざけてなんていないさ。

 他人の名前を珍妙だなんて、

 ふざけた侮辱をしているのは、

 きみの方だろう?


 僕はレッドガンを取り出して、

 口うるさい村の若者に狙いを定めた。

 案の定、男は慌てる。


「な、なんのつもりだ!?

 邪教徒め、本性をあらわしたな!?」

「あなたの要求には応えましたよ。

 あなたは女神さまを侮辱しましたね?

 他人を裁けとやっきになって、

 なぜ自分だけが裁かれないと思いますか?

 お聞かせください。

 答えによっては・・・」

「わ、わかったよ!!!

 疑って悪かった!!! 俺が悪かった!!!

 出来心だよ、許してくれよ!?!?!?」


 村人は慌てて身をひるがえした。

 脱兎のごとく逃げ出すとは、この話だ。

 本気で撃つ気はない。

 そんなことをしたら村に滞在できなくなる。

 脅し文句に価値があるのは、

 口喧嘩で終われる時だけさ。


「みなさんどうぞ、

 女神教をよろしくお願いいたします」


 冗談めかせて笑うと、

 女神さまも朗らかに笑ってくれた。




 


 






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三十路の限界アイドルを助けて死んだらそいつの自作ゲーム世界に転生してしまったのだが・・・しかもモブ 二見あい @futami-i

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