第6話 side:女神

◆今回は女神視点の話です◆


「酷い目に遭った・・・」

 

 夜、警察の事情聴取を終えた私は、

 アパートの自室に逃げ込みました。

 

 私、鳴神なるかみキセキ、30歳。

 職場ではキセキちゃんと呼ばれています。

 趣味はゲームと音楽鑑賞。

 いわゆるオタクカルチャーが大好きです。


 昔から「キセキちゃん顔だけは良いよね〜」と言われ続けて、はや三十路・・・

 高校卒業後はアーティストを志して、

 キラキラしたアイドルをやっていました。


 ・・・だけど最後まで鳴かず飛ばず。

 今ではお世話になったゲーム会社に拾われて、ゲーム制作のお手伝いをしています。

 いつかゲームの主題歌を歌いたいな〜と夢見ていた私が、三十路で社内のアイドルをやっているのだから、世の中は厳しいと思います。


「残業で帰りが遅くなっただけなのに・・・」


 今日は本当に酷い目にあった。

 缶コーヒーを買って、

 公園で飲んでいたら・・・

 私のアイドル時代のファンを自称する人たちが、近づいて話しかけてきたのです。


 別人だとシラを切ったけど、

 まるで話を聞いてくれなくて・・・

 それで、それで・・・


「うえっ・・・」


 フラッシュバック。

 私を助けて守ってくれた男の子が、包丁で刺されてしまった。致命傷でした。

 もちろんすぐに救急車を呼んだけど・・・

「可哀想だけど、助からないだろうね・・・」とは、居合わせた警察官の諦めです。


「世の中どうしてこんなに不公平なの・・・」


 吐き気と悪寒で震えながら、思いました。

 私をつけまわしたアイドルストーカーの罪状は、きっと厳重注意でおしまい。

 男の子を刺した痩せぎすの成人男性も、きっと死刑には至らない。ひょっとしたら精神疾患で減刑かもしれない・・・


 結局、怖い思いをしたのは私だけ。

 命を奪われたのは被害者の男の子だけ。


 私たちは、なにも悪くないのに・・・

 どうして加害者ばかりが得をするの???


 思えばアイドル時代から、ずっとそう。

 理想は理想、フィクションはフィクション。

 だけど私は現実を割り切れなくて、ずっと理想と現実の板挟みに苦しんでいました。

 悩む私を可愛いと褒めてくれるファンもいたけれど、彼らが見ているのは、アイドルとしての葛藤であって、私の憂鬱な本心を認めてくれる人は、今日まで誰もいませんでした。


「どうしてなの・・・」


 仕事用のノートパソコンを立ち上げて、

 ボツ案のゲームシナリオを見つめました。

 がむしゃらに作った世界観設定。

 ありきたりなキャラクター原案。

 古典を読んで参考にしたハイファンタジー。

 その結果が・・・


「爽快感が足りないよね。

 もっとカタルシスが欲しいな」


 悪人が裁かれて、

 善人が報われて、

 正しい者が堂々と認められる世界。

 そうでなければ売れ筋に乗らない、とか。


 関西弁でしゃべる狐目男性、とか。

 気取った俺様貴族の帝王、とか、

 ハイファンタジーに、社会不適合者の居場所があるわけないのに・・・


「みんな、嘘ばっかり」


 企画書を握りつぶす。

 悪人は許されて、

 善人はバカを見て、

 正しい者が薄給で利用される時代です。

 欺瞞がなければ商業は回らない。


 悩む私はきっと間違いだらけの人間です。

 だけど、なにも感じないわけがない・・・


「こんなくだらないシナリオ・・・」


 知らずに涙が流れました。

 私だってずっと、自分を守って助けてくれる人が、そばにいてほしかった。

 だけど現実には誰もいなくて、ゲームの中でさえ、そんな人は誰もいなくて・・・ 

 最後に公園で私を守ってくれた男の子は包丁で刺されてしまった。

 すべてが夢まぼろしのフィクションで、

 これが本当の現実だというのなら・・・

 私は・・・私が信じるべき人は・・・


「私は、あなたを信じます」


 この世界でたったひとり、

 私のために死んでくれた、

 名も知らない男の子。


 私は彼のために、

 自作ゲームシナリオに配役を加えました。

 村人A・・・

 どこにでもいるモブキャラクターです。


「だけどあなたは、誰にも負けない」


 意識を集中すると筆が進む。

 ごめんね。

 私のために死なせてしまって・・・


「はじめまして、私は女神です」


 私は創作者クリエイター

 あなたのために、私が世界を作ります。

 

 あなたは正しい。

 あなたはなにも悪くない。

 だから、どうか自由に生きて・・・


「あなたの名前を私に教えてくれますか?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る