ボス猫転生。去勢されたら本気出せない

Lemon the cat

第1話 アンダーワールド

俺の名前は、ムサシ。

S県・愛蔵町……この空き地を縄張りとする、ボス猫だ。


転生者かどうかと言えば、

生物は皆何かから転生してると言える――のかもしれない。


俺の前には、二匹の部下がいる。

三毛猫のミケ。

そして、黒猫のデスガン。


俺様:「フニャー!」

<準備はいいか、お前ら>


ミケ:「ニャー」

<問題ありません、ボス>


デスガン:「にゃーん!」

<いつでも出撃可能であります!>


今日も三匹で、いつものパトロールだ。


……だが最近、俺たちは

"恐ろしい悪魔" に付きまとわれている。


その気配は、音より先にやって来た。


空気が、変わる。

春の匂いに混じって、あってはならない消毒液の香りが漂ってきた。


俺の背中の毛が、逆立つ。


俺様:「ニャア……」

<……来たな>


思わず、美声で唸った。


ミケは耳を伏せ、

デスガンは地面に腹をつける。



――ガラガラガラッ。



路地の向こうから、見慣れた白い箱が姿を現した。


四角い胴体。

無機質な黒い文字。

そして、側面に描かれた赤い肉球マーク。


移動式・去勢執行装置。

通称、キャットソウルリーパー【玉取】。

この造形によっては、ファンタジー装置である。



そして、


続く悪魔も、唐突にやって来る。

彼らにとって、春は悪魔が活発な季節なのだ。



ミケ:「ニャニャニャ!」

<ボス……! ヤツです!>


震える声で、ミケが告げた。


「ほらほら~、かわいいねぇ~。

 いい子だから、こっちおいで~」


にこやかな表情の、人間のメス。

人間基準では、すらりとした美人だ。


だが、騙されてはいけない。


彼女は、


愛蔵町キャット・アライグマ連盟、"重要指名手配犯"。


青野薔薇子――29歳。


彼氏なし。




俺様:「ウニャー!!!」

<いけ、デスガン!>


デスガン:「にゃぁん!」

<お任せください、ボス!>


デスガンは、毛玉のネジの外れた鉄砲玉だ。

これまでに人間を三体、川へ突き落とし、

ずぶ濡れにするという戦果を挙げている。


彼の有名な――

旬のトウモロコシ大量誘拐事件も、デスガンの仕業である。

彼は偏食だ。


……デスガンは人間の視線をかいくぐり、

空き地の倉庫へと駆け上がった。


そして。


デスガン:「うにゃー!!!」

<くらえ!! 創成神技――ゲイル・ロザリオ!>


ムササビのように、滑空。


ぷにぷにの肉球……、


その先の白いハンドがクロスし、


『風の十字架』となりて、



天を。人を裁く――




「……はぁん?」




その瞬間、

青野薔薇子の目が、きらりと光った。


「――フンッ!」


デスガン:「ふにゃああああ!」

<ぐわあああああ!>


鋭い一撃。

青野薔薇子の蹴りが、デスガンの急所を正確に捉えた。


見事な技だった。

キャットボールクラッシュ。


寸分の狂いもなく、的を射止める青の閃光。


そう……。

青野薔薇子は、対猫用格闘術――「愛蔵流」の使い手なのである。


「ふん。甘いわ」


そう言って、青髪の悪魔は髪をかき上げた。


間違いない。

青野薔薇子は、強キャラだ。


後光が差し込み、

心なしか、世界そのものが

この存在を祝福しているように見えた。まるでファンタジー作品だ。


ミケ:「ふにゃにゃ!!」

<ボス! どうしますか?! 撤退しますか?!>


俺様:「ニャオーー!」


<忘れたか、ミケ。

 俺様には――切り札がある。

主人公最強タグを、舐めるなよ?>


ミケ:「……ふにゃ?」





次回へ続く――(?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボス猫転生。去勢されたら本気出せない Lemon the cat @lemonpie55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画