15 星環砦へ

「おい、おい、おい」


 カイたちはボクスの運転する小型の飛行機に乗り込んで、空を飛んでいた。


――まさか、こんなことになるとは......。

 カイは高いところが苦手だった。暗くて高さは分からなかったが、時折感じる浮遊感に足元がすくんでいた。



 ボクス商店からの帰り道、ミレナから「明日には出るから準備をしておいてね」と声を掛けられ、翌日の夜が更け始めた頃、ミレナから予定どおり「行くわよ」と号令がかかった。詳細な説明はこの間一切なかった。


 リナは外に出て何かをしている様子だった。暗くて少し見にくかったが、何かが飛び立っていくように見えた。

「リナ、何をしているんだ? そろそろ行くってよ」

「一応、保険をかけていたんです。今行きます」


 カイとリナは、ミレナの後について行った。誰に密告をされるかわからなかったので、足早に、腰を屈めながら旧都ノクシアを出て行った。

「これから、星環砦に行くんだろ? なんでノクシアを出るんだ?」

「着けばわかるわ」

 ミレナは相変わらず説明をしてくれない。それも作戦に関わるとかではなく、驚かせたいがゆえであることがその顔つきからわかる。何かを企んでいるかのようなニヤニヤとした顔をしていた。


 歩くこと20分、ミレナが大きな倉庫のような建物の前で止まった。高さは3階建てのビルぐらいあり、ちょうど蒲鉾のような形をしている。


「ミレナちゃん~」建物の前でボクスが手を振っている。

「準備はできた?」

 ミレナの言葉に、ボクスは親指を立てて、OKの合図をした。そして、ボクスが倉庫のシャッターを開けると、そこには小型の飛行機が一つ置いてあった。プロペラが先端に付き、スライド式のドアが側面にあり、旧型なのか、所々さびつき、古いように見える。


「飛行機......?」カイの空いた口が閉じない。


「ああ、よく知ってるな。遺物の中でも特級品の遺物だ」ボクスは言った。


「もしかして、これに乗って星環砦に行くんですか?」

「そうだ。星環砦は横からの防備は完璧だが、上から侵入者が来るなんて考えてもいない。そこだけが付け入る隙になる。上には点検用の階段があり、そこから中に入れるはずだ」


「それはそうかもしれないけど、飛行機を星環砦の上に着陸させるんですか? 着陸の距離は足らないだろうし、そんなことできたとしても、敵にすぐにバレるんじゃ......」 


「まさかそんなことをするわけないだろ? 飛行機で行くのは上空までだ」


「そこからはどうすれば......?」

 カイのその言葉を聞いて、ミレナが不敵な笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。



 ボクスの運転する飛行機で炎諏佐の国の上空に飛び上がっていった。ボクスはどこで運転技術を取得したのか全く不明であったが、それなりに運転には慣れている様子であった。ただ、飛行機が古いせいなのか、ガタガタと揺れ、機械がきしむような音が数秒に1回のペースで鳴り続けた。その音を聞くたびに、カイは身震いをしていた。


「まさか、初めて乗る飛行機がこんな形になるとは思ってもみなかったよ......」

 カイはリナに話しかけた。


「飛行機ってすごいですね。こんな大きいものが空を飛ぶなんて、どんな魔法を使ってるんでしょう?」

 リナは怖がっている様子はなく、むしろ楽しそうだった。


「魔法っていうよりも、技術だね。揚力を使って飛んでるんだけど、まあ、詳しいことは俺にもわからないよ」

「へぇー、カイさんは詳しいですね」

「詳しいっていうのかね......。まあ、今は無事に到着することを願ってるよ。それよりも、どうやって星環砦に行くんだ? ミレナは絶対教えてくれないし、レナは何か知っているか?」


 リナはとぼけた顔をしていた。

「あー、ちょっと私もわからないんですよねー」


――絶対、何か知っている。


 ボクスが叫んだ。


「そろそろ、着くぞ! 準備しろ!」


 その声を聞いて、ミレナは立ち上がり、飛行機の扉を横にスライドして開け放った。


「おい、おい、おい。ミレナ何をしているんだ? まさか......」

「さあ、ここから飛び降りるわよ。タイミングは一瞬しかないから、躊躇してる暇はないわよ! ほら、みんな手を繋いで」

「ここから飛び降りるって、どうやって着地するんだ?」

 リナは何も疑問を持たずに、ミレナの隣に行き、手を繋いでいる。


「さあ、カイさん、行きましょう」


 リナは何一つ躊躇することなく、カイに手を差し伸べてきた。


――本気なのか?


「いや、そんな簡単に言うなよ。無理だろ!」


 ボクスが再度叫ぶ。


「そろそろだ。カウントを開始する! 5、4、3......」


「ちょっと待ってくれ。まだ心の準備が......」


「カイ!」 ミレナが声をあげる。


「カイさん、私を信じて」リナが優しく語りかける。


――信じる? 何を? なんで急にこんなことになってるんだ。


「2! 1!」


 カイはそのカウントを聞いて、覚悟を決めて、いや、むしろ諦めに近いか)、リナの手を取った。


「いまだ! いけ!」


 ボクスの掛け声で、3人同時に飛行機のドアから外に飛び降りた。


 カイはうつ伏せの状態で、空に浮かびあがった。いや、ただ自由落下しているだけだ。手は、きちんとつないだままで。

 

 風が体全体に当たる。

 

 寒く、痛い。

 

 目から出た涙が空に消えていく。


――これは、さすがに死んだな。


 カイの頭に走馬灯が駆け巡る。


 まだ母親が生きていた頃の、ご神木の下で遊んだあの日の記憶。友達と鬼ごっこをして笑っていた。親父は、母親と何やら真剣な顔で話をしているのが横目で見える。声までははっきりと聞こえない。


「......時渡り」


 母親のおぼろげな声だけが聞こえる。親父は何か怒りと悲しみが混ざった表情をしている。


――なんだ、この記憶は?


「カイ!」ミレナの声が聞こえた。「大丈夫? 意識だけははっきりさせといてね! リナちゃんの手を離したらアウトだから」


 カイはリナの方を見た。リナは目をつぶっている。そして、何かを呟き出す。その声は静かに、けどはっきりと。


「我は天照のみこと。天地を分かつは神よりの羽。空を描くのは天使のことわり。風よ、道を描け――」

 

 カイが下を見ると、星の形をした要塞が目に入る。接触するまで、もうそんなに時間がない。


風渡りウィンドリフト!」

 

 リナがそう叫ぶと、リナだけではなく、カイとミレナの体全体が薄い膜のような白いオーラに包まれる。

 そして、落下速度が徐々に落ちていき、まるで羽が舞うような速度になった。


「これは……?」カイが再度下を見ると、もう星環砦に足が着きそうだった。


――飛んでるのか?


 カイたちはゆっくりと星環砦の屋上部分に両足を下ろした。

 

 ミレナがピョンピョンと跳び跳ねた。

「最高! こんなスリリングな体験は2度とできないわ! さすがリナちゃん!」 ミレナが興奮した様子で言った。


「ありがとうございます。うまくいってよかったです」リナは少し頬を赤らめて答えていた。


「リナ、今のは?」


「カイさんに見せるのは初めてでしたね。私、天照の民なので、魔法が使えるんです。詳しくは今度機会があればお話しますね」


「ああ、そうか」

 カイは理解の速度が追いついておらず、空返事しかできなかった。


――この世界には魔法もあるのか......。


「それじゃあ、ちゃっちゃっと中に入っちゃいましょう!」ミレナが右手を突き上げた。


 その時......。


「おい!」


 突然、カイたちの後方から声が聞こえ

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リバースワールド~白いワンピースの少女に連れられたそこは、サカサマの世界。時渡りの運命に導かれて、同じ時間を繰り返し廻り続けることに~ 蒼生芳春 @aoiyoshiharu

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