EP3 言葉だけしかねえんだよね
言葉というのはクセモノで、ワイに言わせると満員電車で表情も変えずせっせと痴漢するようなものである場合がある。しれっとしているんすよ、言葉って。
言葉そのものにも言語感覚っていう感覚があるわけだけれど、そうでない他の感情感覚を置換する、あるいはそもそも把握するセンサーとして言葉が置かれている。それを考えると、ただただ言葉のみで根幹表現をやっていかにゃあならない小説書きなんて、ひとつでも多く表現の幅、選択肢であるところの言葉を多く抱え持つべきだし、似たような言葉の微妙な違いについてしっかり自分を研ぎ澄ませておくべきなんですわな。
それは知識自慢とか、ナントカ大の文学部ご卒業とかさ、そんなのはどうでもいいんす。どれだけ可能な限り自分の感覚の把握、感覚の再現にフィットする言葉を突き出せるか、その一点に尽きるわけなんすわね。
だから、語彙は多い少ないでなく、死ぬまで増やしていくものなんですよ。時々、そんなの知らない、今の時代に合わないって居直る書き手がいるけれど、あれは実につまんないプライドだと思いますわ。そういうプライドって、自分の書いた文章に滲むからねえ。自分が使わないだろうと思いつつも、別にストックだけしとけばいいんですわ。類語との違いを対比させるだけでもお得ですからね。
それに、やっぱり自分の知らない言葉、自分の知らない感覚フィッティングできていない感覚、という者に対して、初手からそっぽ向くっていうのは、そもそも自分が行うメインの言葉を使う作業で、言葉のフィッティングに無頓着なのかなと、ワイなんかは思ってしまいます。それまずいです。っていうのは、やれ高い目線とか志とかでなしにね、言葉ってこっちがそっぽ向いて適当につかっていると、言葉の方がこっちを喰って来るでしょ。それが危ない。
言葉は感覚の再現、置換のデバイスであるわけです。ところが、必ず言葉を使えばそこに感覚がキャッチされているかというと、全然違う。
例えば幼稚園児に口マネごっこで、
「労働の後の生ビールはサイコーだ」って言わせてみることを思い浮かべます。ホントにそんなこと吹き込んじゃダメっすよ。あくまで脳内シミュレートしてみる。
語るでしょ、幼稚園児。もしかしたら大人の反応見て喜んでドヤ顔かもしれない。でもそれウソやん。幼稚園児に労働の苦しさ、屈辱なんてものはわかったら大変だし、そこから解放される象徴としての生ビールがわかったらもっと大変だ。
言葉って平気で、表情変えない痴漢同然に、こういうことがやれるんす。中でも小説書きは、人類種の中でこの種の幼稚園児行為を最もやらかしているかもしれない。
それっぽいことなんて鍛錬すればスイスイ書けるわけですわ。
でも本当に、自分の書いたものの中、自分の作品の中に、自分自身の感覚が宿っているか。自分自身の感覚を宿す言葉をしっかり使えているか。幼稚園児の生ビール、幼稚園児のタバコなんてのになっていないか。
ワイは、小説書きにとって切っても切れない言葉という存在に、そもそも全幅の信頼を置いておりません。絶対に信用したらアカンとさえ思っている。
そもそも構造的に悲劇なんすよ。
ワイらの感覚はワイら自身のものであり、ワイらの実際に存在する所以なり証であったりもします。
ところが、それを把握させそれを再現してくれる言葉というものは、ワイらひとりだけが抱え持っていても意味がない。自分にだけ意味の通じる言葉というのは成立しないんですわね。それは必ずだれか、まあ自分の中の別人格という他者なんかもあてはまるかもですが、他人とシェアすることによって、ようやく言葉は言葉である。
ワイらはそれに、自分である感覚を委ねちゃっているわけです。委ねるしかないんす。矛盾なんすよね。
特に言葉の辞書的な意味合い、記号的な意味合いというのは、ワイら自分自身の独自性とすこぶる相性が悪い、というより存在を許される時空が異なる。
すごいチグハグなんす。正視しようとすると、ちょっとメンタルの鍛錬ある程度積んでおかないとアタマおかしくなってしまうかもしれないっす。
でもワイらは、書き続けるには、当たり前だけれど言葉から逃れられやしない。っていうより、生きていれば言葉からの逃避なんて無理なんすわ。
その構造性の中で、どう書いていくか。どう言葉と付き合っていくか。それはとてつもない命題であるわけです。
伊生式まるで役に立たない創作論 伊生仁鵜 @inonu
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