EP2 感覚を再現する

 小説のオモロイでもいいし、感動でもいいんだけれど、自分の中の何かを再現するというのが、言葉を使って小説を編む意味合いであるわけなのだ。

 どんな小説でも、意図的または無意識的に、何かを再現しようとしてワイらは言葉を連ねている。

 ただそれが、自分にとって丸々再現したい作品をということになると、二番煎じと呼ばれる。自分の中の微妙すぎるが揺るぎない、そしてありがちでなくて文芸的に開拓されていない感覚の再現となると、革新的な作品と評されることがある。どっちがいいか悪いかは、文芸作品としての価値を評価軸にするのならば決定的なのだが、感覚の再現のために書いているということならば別に大した違いもない。そもそも、自分がメタメタに影響受けた作品も、別の何かの再現であろうし、自分の実体験とやらだって、どこからどこまでが自分の主体的な領域での感受やら直面やら知れたものでないのだわね。

 再現すべき何か、というのは結構曖昧で不確かである。また、作家として、再現すべき感覚がどういう要因、どういう材料、どういう手順で生じたケミストリか、化学式を把握することなしには、再現は偶然に頼るしかない。

 そうなると、再現すべき何かを作家はそもそも、いかにして再現するかというテーマで調査解析する必要があるわけだ。

 実はそれこそが、小説を書く方法論だったりする。小説として再現するために小説をどう設計し組み立てていくか。それには再現すべきものがどういうパーツで成立し、どういう結合をしなければならないかということになるのね。

 その調査解析を、ちょっとムリするエイヤで「読む」と呼んじゃう。再現はそうなれば「書く」になる。小説書きにとって読むとは、再現を熱望すべき感覚の探索であるし、またその感覚がどのようにして成立しているかというメカニズム、設計図を見破るということでもある。

 ただまあ、見破るにはそれなりのレベル上げが必要だ。

 ぶっちゃけ、なるべくピンポイントに、かつなるべく精緻に読めれば、その再現としてそのように書くこともできるわけだが、初手からそんなことがやれれば苦労はない。しゃあないから最初のうちは、わけもわからず、小説というかたまりのブラックボックスごとマネマネしてみるしかない。言葉は悪いが、こうすれば書けるラクラク小説攻略本タイパサイコーなんてのは、このブラックボックスをいかに効率よく、かつブラックボックスのままで移植するか、というところに主眼が置かれていて、ブラックボックスそのものをしっかり直視する、という点においては、全部が全部でないにせよ、あんまし熱心に触れていないような気がしてならない。ヘタをすると、書いているやつにそもそも小説形式のブラックボックスという自覚がないのかもしれなかったりするかもしれない。それが小説だ! ででーん! みたいなさ。

 んなことあるもんか。

 小説は、テンプレからも、セオリーからも、先行作からも、先入観からも、そして形式からも、できるだけ自由であるべきだし、またできる限り自由を目指すべきものなのだ。つまらんガチガチのシャバの常識をブレイクスルーして、やれぶっ殺せ、やれ踏みにじれ、やれグループセックスでやりまくれというのが、時と場合によってイケイケドンドンである思念の自由のフィールド、虚構というそれが小説なわけである。虚構で好き放題やりたい放題やりまくりで、ワイらはシャバの窮屈さ、不自由さ、難儀さから遊離して、シャバで許されなかった感覚の再現を虚構のフィールドで行える。

 その小説書きが、ブラックボックスに盲従しているのも、アホウな話なのだ。ただし、ブラックボックスを透視して内容構造を看破できるまでは、ワケがわからんにせよそのルールをお作法程度の認識で使っていくしかないというのも事実なのである。その意味でその手の創作論も意味がないわけじゃない。とっとと捨て去るべき古わらじとは思うがね。ただ、自分のグレード、自分の時期によっては、それに頼るべきタームも存在する。

 そして、小説表現というのは、その感覚の再現を巡る巧拙の果てしないせめぎあいっちゅうことになる。主題は極めてシンプルだ。再現すべきを、よりよく読んでよりよく書く。テメーそれが一番大変なんだろうが、というやつである。

 そう、実際大変なのだ。

 大変さの要因はいくつもあるが、ワイに言わせると、感覚の再現といっても自分の感覚を石切り場の石のように切り出して、作品の上にどすりと置いて、というわけにはまるでいかないのが悲劇なのである。どうするか。言葉を使う。ったりまえのことだ。この言葉というやつが実にクセモノなのだ。何がクセモノといって、言葉は自分がクセモノであるということを宿主には一切おしらせしないし、気づかせもしない。エロマンガとかで出てくる痴漢し放題の透明人間みたいなもんだ。

 小説書きの、よりよく読んでよりよく書くために不可欠のパートナーであるのが、このエロマンガ透明人間であるというのは、さてさて実に困ったことなのだけれども、それはまた次回。

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