第15話 均衡の中で


大規模な戦闘は、

それ以降、

起きていない。


魔物の出現頻度は、

徐々に平常値へ戻り。


前線の報告書からは、

「異常」という文字が

消えた。


世界は、

静かだった。


王都の一室。


窓から差し込む光の中、

俺は椅子に座っている。


机の上には、

最新の戦況報告。


どれも、

問題なし。


「……安定してますね」


補佐官が、

小さく言う。


「ええ」


それだけで、

会話は終わる。


俺は、

作戦会議に

頻繁には出ない。


前線にも、

常駐しない。


必要な時にだけ、

呼ばれる。


呼ばれない時は、

何も起きていない証拠だ。


それが、

一番いい。


ある日、

王都の街を

歩いた。


人々は、

俺を知らない。


市場は賑わい、

子供たちが

走り回る。


剣も、

魔法も、

必要のない光景。


それを見て、

胸の奥が

少しだけ軽くなる。


――これでいい。


英雄が

喝采を浴びる世界は、

分かりやすい。


だが、

英雄が不要な世界こそ、

本当は

正しい。


ベンチに腰を下ろす。


風が、

穏やかに吹く。


何かが

起きそうな気配は、

ない。


均衡は、

保たれている。


俺が、

そこにいるから。


そして、

そこにいなくても

壊れないように

なったから。


それが、

一番の成果だ。


ふと、

昔のことを思い出す。


外れスキル。

役立たず。

追放。


全部、

事実だった。


俺は、

戦えなかった。


今も、

戦えない。


だが――

世界は、

戦うことだけで

守られるわけじゃない。


誰かが

前に出る時。


誰かが

後ろで

崩れないように

支えている。


それが、

見えないだけだ。


夕暮れ。


空の色が、

静かに変わる。


俺は、

立ち上がった。


明日も、

たぶん

何も起きない。


だが、

もし起きたとしても。


俺は、

剣を抜かない。


叫ばない。


ただ、

そこにいる。


均衡が

崩れないように。


それが、

俺の役割だ。


外れスキルと

呼ばれた力は、

世界の裏側で

働き続ける。


名前も、

称賛も、

いらない。


世界が

静かに回っているなら。


それで、

十分だった。


--完--

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外れスキル《調整》を持つ俺は追放されたが、世界の方が俺を必要としていた 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123

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