第3話「肉は爆発し、牛みたいなのが生えて、友達もできました」

第3話「肉は爆発し、牛みたいなのが生えて、友達もできました」


――ぐちゅっ。

「……え?」

 嫌な音がした。

 さっきまで整然としていた畑の一角が、不自然に盛り上がる。

――ぼこっ。

「……ん?」

 ミトは一歩、後ずさった。

――ぼこ、ぼこぼこ。

「ちょ、待て待て」

 嫌な予感しかしない。

 次の瞬間――

――ドンッ!!

「危ない!」

 ミトは反射的に後ろへ飛び退いた。

 地面が弾け、土が舞い上がる。

 小規模とはいえ、完全に爆発だった。

「肉の種って、爆発系なの!?」

 土煙がもうもうと立ち込め、視界が真っ白になる。

 耳鳴りが、少し遅れてやってきた。

「……生きてるよな、俺」

 恐る恐る、前を見る。

 土煙の向こうで、何かが――動いた。

――どしん。

「……え?」

 現れたのは、四足歩行の生き物だった。

 大きい。

 牛くらい……いや、牛より少しだけ大きい。

 角があるようで、ない。

 毛並みはもふっとしているのに、ところどころ鱗みたいな質感もある。

 顔立ちは牛っぽいが、目が妙に丸くて優しい。

「……牛?」

 でも、違う。

 明らかに、見たことのない生物だ。

「……これって、食用ってこと?」

 思わず、口に出ていた。

 生物は襲ってくる様子もなく、

 ただ巨大な体で、じっとミトを見ている。

「……敵じゃないってこと?」

 ミトがそう問いかけると、

「ンモー!」

 低くて、でもどこか間の抜けた鳴き声が返ってきた。

「あぁ……」

 ミトは少し、肩の力を抜いた。

「なんか、牛っぽいなぁ。見た目はちょっと違うけど、そんな感じする」

 その瞬間――

「ンモー!」

 生物が、ずいっとミトに近づいてきた。

「え、ちょ、近――」

 どしん。

「……え?」

 巨大な体が前脚を折りたたみ、

 犬がやる“伏せ”みたいな姿勢になった。

 畑が、軽く揺れる。

「……えぇ?」

 ミトは目を丸くした。

「びっくりするから! そのサイズでそれやるの!?」

 生物は、じっとミトを見上げている。

「……うーん」

 ミトは顎に手を当てた。

「まあ、敵じゃないのは分かった」

 少し考えて、苦笑する。

「とりあえずさ、その体勢つらくない? けっこうデカい身体なんだから」

「ンモー!」

 生物は鳴いて、のそのそと体勢を楽な形に戻した。

「……うん、そっちの方がいい」

 ミトはほっと息をつく。

「じゃあ……味方ってことで、いいのかな?」

 生物は、首を傾げるような仕草をした。

「まあ、いいや」

 ミトは笑った。

「これも異世界っぽいってことで、こういうのって受け入れたほうが話は早いよね」

 そうなると――

「……仲間なら、名前つけないとだな」

 その言葉に、生物がぴくっと反応する。

 期待するように、目を輝かせた。

「えーっと……」

 ミトは生き物を見上げる。

「デカくて、ンモーって鳴くから……」

 少し考えて、頷く。

「よし。デンちゃんで」

「ンモー!!」

 明らかに、喜んでいる。

「よかった」

 ミトは笑顔になった。

「よろしくな、デンちゃん。俺はミト」

 デンちゃんは、嬉しそうにしっぽ……のようなものを振った。

 そのとき。

「……この辺で、爆発音したんだけどなぁ」

 森の方から、聞き慣れない声が響いた。

「?」

 ミトは振り向く。

 木々の隙間から現れたのは、年頃の女の子だった。

 彼女は――

 畑。

 ミト。

 デンちゃん。

 その順で視線を動かし、ぴたりと固まる。

「……あなた、誰?」

 警戒した声。

「あと、その大きな生物は何?」

 一歩、後ずさる。

「それに……なんでこんなところに、畑があるの?」

「あ、えっと」

 ミトは慌てて、両手を上げた。

「怖がらないで。うん、そりゃそうだよね。爆発音もしたし、こんなデカい生物いるし、急に畑あるし」

 自分で言ってて、状況がひどい。

「でも、心配しないで」

 できるだけ柔らかく、笑う。

「俺……いや、僕達は、悪い人と生物じゃないから」

 女の子は、まだ警戒を解かない。

「……本当に?」

「うん」

 ミトは頷いた。

「僕はミト。こっちはデンちゃん」

「ンモー!」

「……鳴くんだ」

「鳴くよ。ンモーって」

「……かわいい」

 ぽろっと、本音が漏れた。

「私はリンネ。この先の村に住んでるの」

「あ、村あるんだ」

 ミトは内心でほっとした。

 リンネは、デンちゃんを見て首を傾げる。

「珍しい魔獣だね。肉質、良さそう」

「待って」

 ミトは反射的に声を張り上げ、リンネの前に一歩踏み出した。

「待って待って待って」

「え?」

 リンネは目を瞬かせる。

「食用前提なの、そこ!?」

「だって、ノーマルホーンっぽいし」

 リンネは当然のように言い、デンちゃんを観察する。

「ノーマルホーン……牛みたいな感じか。うーん、ノーマルホーンっぽいんだけど……」

 ミトは無意識に、デンちゃんの前に立っていた。

「それに元々は確かに食用だったかな。でも、今は友達だから!」

「ンモー……?」

 デンちゃんは不安そうに鳴き、丸い目でミトを見る。

「あ、大丈夫だからね。デンちゃん」

 ミトは慌ててフォローした。

 その様子を見て、リンネはくすっと笑った。

「変な人」

 くすくす笑いながら、率直な感想を口にする。

「それはよく言われる」

 ミトは肩をすくめて返した。

「でも、悪い人じゃなさそう」

 リンネはそう言って、警戒を解く。

「こんなぐちゃぐちゃの状況を受け入れてくれて」

 それから三人(?)は、少し話して仲良くなった。

「また来てもいい?」

 帰り際、リンネが振り返って言う。

「もちろん」

 ミトは即答した。

「じゃあ、またね。ミト、デンちゃん」

 リンネは手を振り、森の方へ歩き出す。

「ンモー!」

 デンちゃんが嬉しそうに鳴く。

 リンネが帰っていくと、空はすっかり夕暮れだった。

「まずい……暗くなってきたな」

 ミトは空を見上げる。

「そうだ。寝るところどうしよう」

 苦笑する。

「野宿って、経験ないんだよなぁ」

 ふと、リュックを見る。

「……そういえば」

 中を探る。

「うん? これ……」

 小さなカプセル。

「《家の種》?」

 首を傾げる。

「なんだろ。テント的な感じ?」

 デンちゃんを見る。

「まあ、使ってみるか」

――異世界畑ライフ一日目の夜。

 肉は生え、友達ができ、

 どうやら家まで“育てる”ことになりそうだった。

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2026年1月11日 07:00

天国行きのはずが、異世界で畑を耕すことになりました。 なかごころひつき @nakagokoro

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