本日も晴天なり
異端者
『本日も晴天なり』本文
「なんだと!? ……本当にそんな理由で?」
刑事の一人が言った。その声は戸惑いと怒りを含んでいた。
「頭のおかしい振りをしているだけじゃないのか?」
別の刑事は、精神鑑定による
僕は物心ついた頃から、自分は他人と何か違うと感じていた。
いや「違う」のではなく「欠けている」と感じていた。
それがなんなのか、それを得たらどうなるのかをずっと知りたかった。
辛い時は、心に雨が降るんだよ。
あの時、涙を浮かべた女の子は、そう言った。
幼い頃、近所の公園でのことだった。
その子は泣いていた。その理由を聞いた答えがそうだった。
その子とはそれきり会わなかった。
数日後のTVのニュースでは、虐待死した児童として名前が出ていた。
あの子の雨は上がったのだろうか? ――ふと、そう思った。
僕の心に、雨はない。
ただ、残酷なまでに太陽が照り付け、乾いた大地はひび割れていく。
誰も
ただっ広い荒野が延々と続いている。
僕はあの子の言葉の意味を知りたいと思った。
だが、僕には何も辛いとは思うようなことはなかった。
他人に無視されようが、イジメられようが辛いとは思わなかった。
テストで良い点を取ったり、
両親は僕を「手が掛からない良い子」だと思っているようだった。
僕は空っぽの人間だ。
心の奥には、ただ空白しかない。
それでも、
高校生になって、同級生の女子から告白を受けた。
「落ち着いていてカッコいい」というのが、彼女の評だった。
どうにも女子の間では、僕の容姿は好かれているそうだった。
僕は彼女の告白を受け入れた。
別に彼女が好きだった訳ではない。ただ「心に雨が降る」というのは、どういうものか知れるかもしれないと思ったからだ。
僕は休日になると、彼女とデートした。
彼女は楽しそうだったが、僕はそう思わなかった。
僕はこのままでは意味がないと、彼女に別れを告げた。
突然の別れに、彼女は泣きながら「どうして?」と繰り返した。
ああ、彼女の心には雨が降っているのだ――そう感じたが、僕の心は動かなかった。
僕は正直に「何も感じないから」と答えた。
酷い! そう叫んで、彼女は去っていった。
それ以来、高校では近付いてくる女子はいなくなった。
お前、女子に嫌われているぞ。そう男子の一人に言われたが、特に気にしようとも思わなかった。
僕の心には、一向に雨は降らなかった。
雨も風もない、心の荒野は「死」を感じさせる光景だった。
成績は良かったので、大学に進学した。
何もしたいこともなかったので、親の言う通りの遠くの大学へと入学した。
大学でも女子に告白されたが、何度か断っているとされなくなった。
大学三年になり、言われるがまま就職活動をして、卒業後に就職した。
そこでは、夜遅くまで残業させられることもあったが、大して苦痛でもなかった。
だが、同期は次々と辞めていった。
こんな職場、耐えられない。そう言い残していったが、僕は何も感じなかった。
ある日、帰りが遅くなった時、降りた無人駅で泣いている女性に出会った。
それはどこか、あの子を思い出させた。静寂に
僕が声を掛けると、彼女の祖母が死んでその葬儀の帰りだという。
親しい肉親が死ねば、心には雨が降るのか――そう理解した。
僕が実家に帰ると、両親が驚いた顔をした。
僕は用意してきた包丁で二人を刺した。
何度も何度も刺して、完全に死んだのを確認した。
これで、僕の心にも雨が降るのだろうか――そう期待した。
僕の心は、それでも晴れたままだった。
雨はおろか、
雲一つない青空から、
本日も晴天なり 異端者 @itansya
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