第3話 鎌じいの大嘘と孫修行
「鬼や! 鬼が出たぁ! 鎌じい、食べられてまうぞ!」
おヨネの叫び声が竹林に響き渡り、
驚いた雀たちが一斉に空へ飛び立った。
ラキは、腰を抜かして震えるおヨネを不思議そうに眺め、
自慢の牙を見せて「にへっ」と笑った。
それがまた、おヨネの恐怖を煽る。
「……あーあ、おヨネさん。何が鬼や。人聞きの悪いこと言わんといてぇな」
鎌じいはやれやれと首を振り、
地べたにへたり込んだおヨネの前にどっかと座り込んだ。
「何言うてんの!鬼やないか!
その金ピカの頭に、その牙!
どこをどう見ても、お伽話に出てくる鬼そのものやんか!」
「アホやなぁ。よう見てみ、この透き通るような肌。
都におった頃のわしにそっくりやないか。
これはな、わしの隠し子の、そのまた隠し子の……まぁ、言うたら『孫』や」
「孫ぉ!? 鎌じい、あんたそんなキラキラした血筋やったんか!?」
おヨネが目を丸くする。
鎌じいはここぞとばかりに、都仕込みのハッタリをかまし始めた。
「そうや。わしの一族にはな、稀に『黄金の神童』が生まれる呪い……やなくて、
お印があるんや。
この牙も、将来しっかり飯が食えるようにっちゅう神様の計らいや。
都ではこういう子を『日輪の申し子』って呼んで、みんなで拝むんやぞ」
「……ほんまか? 都の流行りは、えらい気色悪いんやなぁ」
おヨネは疑り深い目でらきを見たが、
鎌じいの堂々とした(嘘くさい)態度に少しずつ毒気を抜かれていった。
ラキは空気を読んだのか、おヨネが持ってきた大根を一本手に取ると、
そのままバリバリと景気よく食べ始めた。
「うわっ、大根を生で……! ほんまに丈夫な孫やなぁ」
「せやろ? ほら、ラキ。おヨネさんに『おおきに』は?」
ラキは口の周りを大根の汁だらけにしながら、「あーっ!」と元気よく声を上げた。その無邪気な様子に、おヨネもついつい頬を緩めてしまう。
「……まぁ、あんたが孫やって言うなら、そうなんやろ。
けど鎌じい、その頭のピカピカ、外では隠しときや。
里の若いもんは気性が荒いから、ややこしいことになりかねん」
「分かっとる。おヨネさん、これ、内密に頼むで。
お詫びに今度、都のいいお香でも分けてあげるさかい」
「香に釣られるような女やないわ。
……まぁ、大根の代わりにおはぎでも持ってきたるわな」
おヨネはぶつぶつ言いながら帰っていった。
一難去った部屋の中で、鎌じいはドッと大きなため息をついた。
「……ラキ。お前なぁ、いきなり飛び出したら心臓に悪いわ。
わしが都の人間やからなんとかなったけど、次はないぞ」
ラキは鎌じいの膝に頭を預け、満足そうに喉を鳴らした。
「ええか、今日から特訓や。人間の中で生きていくための『孫修行』や。
まずは、その力を隠すこと。次に、その牙を見せて笑わんこと。そして……」
鎌じいは、部屋の隅に積まれた分厚い書物を取り出した。
「わしが都で学んだ知恵、全部お前に叩き込んだる。
鬼の力を持った人間になるか、人間の心を持った鬼になるか……
それはお前次第やけどな」
鎌じいの「教育」という名の新たな戦いが始まった。
ラキが初めて「いろは」ではなく、「理(ことわり)」を学び始める、
茨木の里の静かな午後であった。
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