第2話 研修という名の一日
朝四時半。
まだ夜の延長のような時間に、目が覚めた。
外は静まり返っていて、世界全体が息をひそめているようだった。
本音を言えば、もう少しだけ布団の中にいたかった。
だが、今日はそうもいかない。
――日課の筋トレを再開する。
第1話の合同練習以来、身体の衰えをなかったことにするのはやめた。
リビングの片隅に置いたダンベルを手に取る。
軽めのはずだが、朝一番には十分な存在感がある。
肘の様子を確かめながら、ゆっくり動かす。
勢いはつけない。
回数も欲張らない。
筋肉をつけるというより、
「まだ動ける」と身体に思い出させるための時間だ。
数分で終わる。
それだけで、気持ちが少し前を向く。
六時半、出発。
外はまだ真っ暗で、車のライトが道路を切り取る。
この時間帯の出勤は、どうしても気分が沈みがちになる。
今日は研修日。
研修という言葉に、胸が高鳴ることは正直あまりない。
「本当に勉強になるのか?」
そんな疑問が頭に浮かぶのも、いつものことだ。
それでも、行かないわけにはいかない。
学校に到着すると、校舎は静かだった。
誰もいない職員室は、少しだけ落ち着く。
ふと、思う。
――これがなければ、休みを取れたかもしれないな。
だが、机に座った瞬間、その考えは現実にかき消される。
目の前には、山のような仕事。
書類、確認事項、連絡対応。
本当は見たくない。
けれど、見なければ先に進めない。
一つずつ片づけていく。
淡々と、無心で。
時計を見ると、研修の時間が近づいていた。
資料をまとめ、会場へ移動する。
参加者は二十人ほど。
事前に「人数が少なくなりそうなので」と救援を頼まれていたが、思ったより集まっている。
――まあ、必要とされているなら、それでいい。
そう自分に言い聞かせ、席に着く。
研修は予定通り進む。
説明、資料、事例紹介。
内容は決して無意味ではない。
ただ、現場でどう生かすかは、結局自分次第だと改めて感じる。
協議の時間になる。
積極的に話す人もいれば、静かに聞いている人もいる。
その中に、ほとんど言葉を発しないベテランがいた。
黙って資料を眺め、時々うなずくだけ。
寝ているわけではなさそうだが、存在感は薄い。
――ああいう関わり方も、長く続けてきたからこそなのかもしれない。
そう思うと、不思議と悪い気はしなかった。
協議は無難に終わり、研修も終了。
派手な達成感はないが、
「今日も一日をちゃんと使った」という感覚は残った。
時計を見る。
午後からは、部活。
この瞬間、気持ちが少し軽くなる。
研修よりも、書類よりも、
やはり体育館に向かう時間は嫌いじゃない。
シャトルの音。
生徒の声。
動きの中でしか見えない成長。
それがあるから、この仕事を続けているのだと思う。
――今日は定時で帰りたい。
そう願いながらも、
午後の部活を思い浮かべると、自然と口角が上がった。
2026年は、
学ぶ日もあれば、教える日もある。
そしてそのどちらも、
体育館へ向かう足取りで、
少しだけ前向きに変わっていく。
私はバッグを持ち、
楽しみにしている場所へ向かった。
先生の日常 おでん先生 @odent
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