第7話「魔王軍四天王」

 世界の果て、魔王城。

 魔王の間、空の玉座の前には四人の大魔族が互いを牽制し合いながら集まっている。

 

「無論、次期魔王は私が引き受ける」


 青髪の細身の男、バートン。

 彼は前魔王の息子にして魔王軍の総指揮を任されている男だ。

 才能も血筋も実力も全て兼ね備えた自分こそが魔王に相応しいと信じて疑わない。

 

誰の返答も必要ないと言わんばかりに玉座に腰を掛けようとするバートン。そんなバートンの行く手をムチの一撃が遮る。



「なんの真似だアモール」


 バートンの目線の先には赤髪の女性が居る。

 彼女は自慢の角を撫でながら不敵な笑みを浮かべている。


「なんの真似?それはこちらのセリフじゃ。今議論すべきは次期魔王などではなく、行方をくらましたリヴ様の事じゃろう。わかったらその妄想を止めてとっとと下がれ」


 自らを侮辱するアモールの言葉を受け、バートンは腰に刺す細身の剣に手を掛ける。


「遺言はそれで良いのだな、アモール」


 目にも留まらぬ速さで繰り出されるバートンの一撃。アモールも応戦すべくムチを振り上げる。両者の武器が空中でぶつかり合い、空気が揺れ、城が揺れる。


「わ、わ、わっ地震だ!」


 黒頭巾の男が頭を抱えながら忙しなく走り回る。

 戦いの振動により城の天井が崩れ始め、瓦礫が彼を襲うが彼は素早い動きでそれを避けていく。



「な、何事ですか!?」


 魔王の間に下級魔族が集まってくる。

 被害はこの部屋だけでなく城全体にわたっているようだ。


「なんでもねぇ、ただの喧嘩だ」


 部屋の中央に座り込む甲冑の男。

 彼の身体にもガンガン瓦礫が落ちているが、全く気にしていない。彼の頭の中は殺せなかった男の事で一杯だった。


「け、喧嘩って、このままでは城が崩壊します!」

「おやめくださいバートン様、アモール様!」


 下級魔族がいくら吠えたところでバートンとアモールの耳には届かない。



「だいたい貴様は目上の者に対する態度がなっていない。私は魔王軍総指揮だ!」


 細身の剣だというのに、一撃一撃が大砲クラスの攻撃を繰り出しながらバートンが叫ぶ。アモールもまたムチを巧みに扱い、攻撃を逸らしていく。


「総指揮?聞いて呆れる。妹一人指揮できていないではないか」

「貴様、言わせておけば……!」


 二人の殺気がぶつかり合い、空気がバチバチと音を立て始める。禍々しいオーラが発生し、辺りに無差別に撒き散らされる。




「やめねぇかぁぁ!!」



 甲冑の男の叫びがオーラを弾き飛ばす。戦っていた二人も思わず手を止め、一瞬で戦いは沈静化する。


「そ、そう吠えるでないスパーダ。妾とてわきまえておる」

「ひとまずここは剣を引かせてもらう」


 あれほど殺気立っていた二人だったが、甲冑の男、スパーダの一喝で一気におとなしくなる。

 頭巾の男はまだ落ち着かない様子でウロウロとしているが、スパーダは彼の体をひょいと持ち上げたあと座らせる。


「お前も落ち着けルクス。俺たち魔王軍四天王が慌てちゃ他の魔族が不安がるだろ」

「は、はい」


 頭巾の男ルクスもようやくおとなしくなる。


 それからしばらく沈黙が続いたが、やはり口を開いたのはバートンだった。



「……リヴは裏切った。裏切り者は抹殺せねばならない」


 バートンの言葉には感情がこもっていない。

 ただの業務連絡のように淡々と妹の殺害を決意する。しかしそう告げるバートンの指は、気づけば剣の柄を白くなるほど握りしめていた。


「それでいいのかよ、魔王のやつはあの女を後継にするつもりだったんだろ?」

「私は認めぬ!」


 スパーダの言葉を間髪入れず否定し、床を殴りつけるバートン。床に亀裂が入り、またしても城が揺れる。


「それは総指揮としての判断か?それとも兄としての判断かのう?」


 ムチを撫でながらいやらしく笑うアモールに対し、沈黙し、バツの悪い表情を見せるバートン。

 二人の間に座らされたルクスは気が気でない。


「け、喧嘩は……」


 言いかけたところでバートンの睨みに萎縮する。



「とにかくだ」


 立ち上がり、巨大な剣を振り上げるスパーダ。石像を破壊できなかった悔しさが込み上げてくる。


「俺はあの男を殺しに行く!」


 剣を床に振り下ろし、高らかに宣言するスパーダ。その言葉にルクスの身体がピクリと震える。


 ただでさえ老朽化し、魔王の加護もなくなった城はその衝撃に耐えられなかった。床が一気にはじけ飛び、様子をうかがっていた下級魔族たちが吹き飛ばされる。

 それだけではない。床に生じた亀裂は壁にまで広がり、天井へ駆け登り、一瞬で城全体に広がっていく。もはや崩壊をとめることは誰にもできず、多くの下級魔族の犠牲とともに城が崩れる。


 玉座だけを残し、城の殆どは瓦礫と化した。


「スパーダ、貴様……!」

「ス、スパーダさん?」

「姫様を追うのは後じゃな」



「うおぉぉぉぉ!くそがぁぁぁ!」



 スパーダの地団駄はしばらく続き、魔王の居なくなった世界でまだ魔王軍を名乗る彼ら魔族は、城の復旧を余儀なくされた。





 


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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜 ガブ @gabustealsmile

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