第2話 ダンジョン・コアが畳だった(火気厳禁)



「違う……そうだけど、そうじゃない……」



 ヨロヨロと立ち上がる女。目線の高さにドレスの膝が――床に触れて薄く汚れているのが見えた。



 綺麗な服が台無しだ。高かったろうに。



 クリーニング代がかさむな、と思いつつ、視線を切ると、畳に集中する。具体的には、さわさわする。



「……それ、やめて……」



「いや、やめる理由がない」



 これ。もう、俺のだし。



「……私は、その『草の塊』から、両手を離せと言っているの。今すぐ!

 じゃないと――焼くわよ。っ!」



 ブワッと部屋の温度が上がり、女の両手に炎の玉が現れる。


 炎に照らされ、女の肌がオレンジへと変わり――



「……」



 ゆらりと湧き上がる。

 万能感。全能感。いや、違う。



 そのとき、俺の中で『ナニカ』が、かちりとはまった。



 俺はその炎に対抗するように、空いている手で二本指を立てて――



 もちろん、もう一方は、さわさわを継続だ。この滑らかな質感。癖になる。さすがは神話級の畳……恐るべし。



 ――おっと。



「二つ、教えておく……」



 ベアトリーチェと名乗った女。


 ――おっかない同僚への情報共有だ。



「一つ、『草の塊』じゃない。



 これは、『畳』だっ!」




 ゆっくりと畳を指し示す。



 その目が、動きを追って――




「……た、た、み……?」



「そう、畳」



 頷く、俺。



 彼女の口がわずかに開いたまま、金魚のように口をパクパクさせる。




 俺は表情を変えず、

 当然、片手は畳から離さない。



「二つ目は……」



 畳から炎へと――


 二本指を向ける。



 まるで、指で作った拳銃だ。

 その銃口を向けるように。



「畳に、。覚えとけ」




 【管理権限の発動を承認】



  【――従者、ベアトリーチェによる迷宮主マスターへの攻撃は無効になりました】



 渦巻いていた炎が消えて、あとに残ったのは、ポカンとした女の顔。



「……え?」



「一回目は、許す。でも、次は無いからな」



「……レベル九の火球よ! なんで普通に止められるのっ!?」



 そりゃ、迷宮主マスターだからだろ。




 ■



 俺はベアトリーチェと名乗るダークエルフから、ダンジョンマスターのイロハを仕込まれた。


 ダンジョンマスターの仕事は、一通り理解したつもりだ。



 ――あと、『畳』。



 理解してしまった。



 あれは、このダンジョンの中枢。



 つまり――



 この畳は、




 『ダンジョン・コア』。




 ……そりゃ、執着するよな。




 だって、畳なんだから。





「まずは、このフロアをフラットにするぞ。ゴツゴツしていては、危険だからな」



「ええ、良いと思うわ。相手が足を取られるメリットよりも、こちらの足を引っ張るデメリットを重視した、ということね」



 脳内に浮かぶコンソールを直感で操作する。ぽちり。



 派手なエフェクトも無く、足裏の感覚が変わって、床が平らになった。



「これで、あの『畳』の傷みも軽減されるな」



「……。なんか、それっぽい事を言った私が馬鹿みたいじゃない」



 静かに呟くベアトリーチェ。


 俺は「何を当然のことを」と視線を送る。



「次は……これだな」



 『罠』のタブから、いくつかをまとめて購入し、適切な箇所にそれぞれ配置していく。


 次いで、ダンジョン建築素材。これも必要なところに必要な分だけ。


 すべてを選び終え、『一括購入』のボタンをぽちり。



 脳内のコンソール。右上のダンジョンポイントが明滅し、数値が流れ落ちるようにカウントダウン。目で追うことができない速度で。



 ――そして、きっちり、0になった。




「ふぅん、生物の水分を奪って殺す罠ね。ずいぶんと、えげつないこと――」


「除湿用だな」


「……。侵入者の攻撃を完璧に防ぐ、絶対防壁――」


「土壁の代わりだ」


「…………。敵の遠距離攻撃を次元の彼方に吸い込む――」


「埃が飛んだら、掃除が大変だろ?」


「……。」



 その後も――次々と繰り出される、ベアトリーチェからの購入商品の説明。

 俺は一つずつ、で買ったかを説明し続ける。



 そして、



「……。ナニ、コレ?」



 目が点になるベアトリーチェ。



「知らないのか? これは――」



 そこには、神話級の畳に負けないぐらいの、



 立派な、立派な――




「これは、和室って言うんだ」




 ――俺だけの完璧な、『和室』が出来あがっていた。






――――――――――

お昼休みにお読みいただき、ありがとうございます。

次回18:35更新、完結です。

畳を汚す不届き者たちの末路を、ぜひ見届けてください。

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2026年1月15日 18:35

ダンジョン・コアが畳だったので、SSS級ダンジョンを和室にしました 希和(まれかず) @charjya

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