ダンジョン・コアが畳だったので、SSS級ダンジョンを和室にしました
希和(まれかず)
第1話 目が覚めたら、畳があった(しかも神話級)
目が覚めると、『畳』があった。
がらんとした部屋に、ポツンと六枚。
六畳一間のカタチに並べられている。
四方は、荒々しく削り出された無機質な岩壁だった。
その中央で、『畳』の緑色だけが、ぼんやりと浮いていた。
……なぜ、こんなところに。ここは、ダンジョンのはずだ。
――少なくとも、俺が死ぬまでは。
「――いや、ダンジョン床に、直で、畳は、駄目だろっ!」
そこは湿気と埃の地獄だぞ。せめて、木板を噛ませろよ。
『和』の心を愛しすぎて、『和の狂気』と仲間内から呼ばれていた俺。
死んだかもしれない、なんてことは頭からスッポリと抜け落ち、駆け出していた。
俺はそばまで近寄ると、ゆっくりと腰を落として、指先を伸ばした。
「これは……」
思わず、指先が震えていた。
『畳の上で死ぬ』
荒事を生業とする者にとって、それは叶わぬ夢だ。
……でも、こんなに素晴らしい畳の上で、
死ぬことができたら。
――気づけば、頭の中が『畳』で埋め尽くされていた。
!?
……俺は何をしているんだ。
横向きに直立不動で寝ころんだ姿勢のまま、固まっていたことに気づき。
立ち上がって、魔性の『畳』から距離を取る。
流石におかしい。
――ダンジョン・トラップかもしれない。
俺の勘が、そう教えてくれた。
そういった罠の記憶は無いが、ここはSSS級ダンジョンの最深部だ。
警戒するに越したことは無いだろう。
トラップであれば、『鑑定』スキルで分かる。
対象に視線を合わせ、鑑定した瞬間に視界が弾かれた。
【情報取得不可】
【――鑑定のレベルが足りません】
俺のスキルは、『畳』に負けた。
……なんでだ? さすがに変だろ。何か理由があるはずだ。
畳の
こいつは、『オリハルコン・シルク』だ。
伝説級アイテムで、上から二番目の品質だ。
かつて、一度だけ目にしたことがある。
それが分厚く、贅沢に使われている。
つまり――
こいつは……。
この『畳』は、
『神話級』――
…………畳が?
完敗だった。
未知のアイテム――
それを前にして、俺は膝をつき、
『畳』にひれ伏すことしかできなかった。
でも、少しぐらい触ってもいいかな?
人生初の神話級アイテムだし。
こそっと手を伸ばそうとして――
「その『草の塊』から、離れなさい」
氷のような冷ややかな女の声に行為を咎められた。
手を引っ込めて立ち上がり、何事もなかったかのように、振り返って女に尋ねた。
「……この畳は、お前のものか?」
「……。」
こちらを見つめる、
ダークエルフか。
女は、黒くて長いドレスを着ていた。
「いい加減、そこから離れてほしいのだけど――」
――なるほど。距離が近すぎたか。
畳から女の方へと半歩だけ近づく。
「そういう意味じゃなくて……あぁ、もういいわ」
女の手から炎が燃え上がり――
「――力ずくで行くことにしたから。
……次に、意識をそらしたら、
――焼くわ、あれ。いいわね?」
そう言って、俺の背後を指差す。
「よし、話を聞こう」
仕方がない。畳ファーストだ。
「まず、事実から言うわ。あなたは一度、死んでいる」
「……やっぱりか」
「あら、驚かないのね」
なんとなく、そんな気がしていた。
あの血溜まりの量は、致命傷だったからな。
「死の直前、あなたが所持していたアーティファクトが作動した」
「それによって、時間逆行――いわゆる『死に戻り』が発生したの」
あの時、拾った不燃ゴミのことだろう。
――ネジ巻きの懐中時計。針が無い。
価値があるかな、と。つい回収してしまった。
まさか、そんな効果があったとは。
「ただ、その副作用として、あなたは、このダンジョンの『管理権限』を取得した」
「……」
――ちょっと待ってほしい。
なぜ、死に戻るとダンジョンの管理権限までついてくるんだ。時計なのに……それって、セットであるべきものなのか。
俺が口を開こうとして、女がすっと手を上げた。
虚空に丸い炎。空いた手でちょいちょいと畳を指し示す女。
……それは、さすがに卑怯だろう。
言葉を奪うために、無関係な『畳』を焼こうとするなんて。
つまり、黙って聞いてろってことか。
仕方なく、言葉を飲み込むことにする。
女は、火球を消すと、
「このダンジョンの設計から維持管理まで、全部あなたの仕事よ。失敗したら、責任も全部」
「……」
――ダンジョンマスター。
俺の冒険者としての知識がそれを教えていた。
「そして、『私の主』でもあるわ。不本意ながら、ね」
「責任は私も取らされる。……不条理で、歪な運命共同体――」
そういって、自嘲気味に女が笑った。
「私は、ベアトリーチェ。
やがて、『深淵』と呼ばれるダンジョン、つまり、この部屋を守る守護者だった者」
「――ここまでの話、理解できたかしら?」
意味深に、笑う。
「……あぁ、分かった」
俺は頷いてみせる。
「つまり、あの『畳』は、俺のモノ――という事だな」
俺の言葉を聞いて、なぜか女が崩れ落ちた。
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