第2話 稽古じゃないのかよ

私が住んでいるのは王都の近くにある小さな村だ。

田舎といえる貧しい村ではあるがどこか活気を感じさせる。

「おはよー!!今日こそは勝つよー!」

朝からうるさいこの声はルミナだ。

幼馴染であり私の稽古相手である。

稽古といっても、ルミナがそう言っているだけで、ただのチャンバラごっこにすぎない。

いつも畑の前の木の下で遊んでいるだけだ。

「おーお前ら、またチャンバラごっこか!」

この背が高く、体格のいい男は私の父親だ。

「ちがいますよ!エリアスさん!稽古です!稽古!!」

ルミナはそう反抗するが、大人からするとどう見てもチャンバラごっこにしか見えないだろう。

「おい、ユリス!お前にはあとでしっかり稽古してやるからなー」

そういうとエリアスは畑に向かっていった。

ルミナとの稽古じゃ力もつかないのでエリアスとの稽古は貴重な訓練の場だ。

そんなエリアスの未来は悲惨なことになる。

実の息子が魔王に与したという話は国中に広がり、家族全員が処刑される。

他にも勇者パーティのメンバーは家族共々皆殺しにされてしまうのだ。

そんな未来だけは絶対に避けなければならない。

そのためにもこのゲームでの知識をフルに活用していくことが必要だ。

ゲームは追加コンテンツも裏ルートも全てやり尽くしている。

登場人物全てのルートも踏破したため、この世界で起こるほとんどのことは私の知っている通りになる。

そのため、私は来月にこの村に大量の魔物がやってくることも知っている。

理由も、数も、進行ルートも。

そしてその時、王国の対応がどれほど遅いかも。

畑では父のエリアスが鍬を振るい、村人たちはいつも通りの朝を過ごしている。

誰一人として、この村がイベント発生地点だとは思っていない。

本来の流れだと王国の騎士団が村に来る頃には被害が出ており数人の死者が出てしまう。

私がストーリーに変化を与えることは好ましくないが、死者の数を少し減らす程度なら問題ないだろう。

「ねえユリス、今日は何本勝負にする?」

木剣を構えながら、ルミナが聞いてくる。

相変わらず元気だ。

「……一本でいいよ」

「えー!少なくない?」

「そのあと、父さんと稽古するから」

そう言うと、ルミナはむっとした顔をした。

「またエリアスさん?

ずるいよ、私ともちゃんとやってよ」

エリアスとの稽古は、この時代ではかなり恵まれている。

父は一時期は地方の騎士団に所属していた。

前線には立たなかったが、基礎だけは徹底的に叩き込まれる。

「……ユリス?」

ルミナが不思議そうにこちらを見る。

「なに、ぼーっとして」

「いや、なんでもない」

本当は、考えることだらけだ。

来月の魔物襲撃。

どうしたらうまく対処できるだろうか。

「ユリス、構え!」

ルミナの声で意識を戻す。

木剣が振り下ろされる。

私は半歩引き、受け流した。

「またそれ!なんでいつも下がるの!」

「前に出るの、向いてないんだよ」

それは冗談でも嘘でもなかった。

前に立つのは、勇者の役目だ。

私はその隣に立つ。

誰が死に、誰が裏切り、

どこで世界が間違うのかを知っている。

だからこそ――

剣を握り直しながら、私は静かに息を吐いた。

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勇者の右腕に転生したけど胸糞エンドを知っているので世界の半分を取りに行く 位置 @ichikuro

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