第11話「最後のリープ」

第11話「最後のリープ」


忘却の異変


メモリア・コーポレーションの崩壊から1週間が経った。


俺たちは、新たな忘却と共に生活していた。


彼女には、名前がなかった。


「名前...欲しいな」


忘却が呟いた。


「じゃあ、つけよう」


ユキが言った。


「どんな名前がいい?」


「うーん...」


忘却が考え込む。


「レイ。怜って書く。賢いって意味」


「レイ...いい名前だね」


ユキが笑った。


「じゃあ、これから君はレイだ」


「レイ...私の名前」


レイが微笑んだ。


でも、その笑顔はすぐに消えた。


「うっ...」


レイが突然、膝をついた。


「レイ!」


俺は駆け寄った。


「大丈夫か?」


「...大丈夫じゃない」


レイが苦しそうに言った。


「体が...消えていく感じがする」


レイの手が、半透明になっていた。


「どういうことだ?」


「彼女の体は、記憶でできてる」


クロエが言った。


「でも、白石のサーバーから切り離されたことで、記憶の供給が止まった」


「このままじゃ、彼女は消える」


「消える...?」


俺は愕然とした。


「どうすれば、助けられる?」


「記憶を与えるしかない」


クロエが続ける。


「大量の記憶を。そうすれば、彼女の体は安定する」


「大量の記憶...どこから?」


「...あなたよ、椎名」


クロエが俺を見つめた。


「あなたのリープ能力。それを使えば、たくさんの記憶を作り出せる」


「俺の...リープ?」


「そう。あなたが何度もリープすれば、その過程で生まれた記憶がレイに流れる」


「でも、リープすれば、誰かの記憶が消える」


「いや、今回は違う」


クロエが説明を続ける。


「レイに記憶を与える場合、消えるのはあなた自身の記憶だけ」


「つまり、あなたがリープすればするほど、あなたの記憶が消えていく」


「最終的には、あなたは全ての記憶を失う」


俺は黙り込んだ。


自分の記憶を失う。


母との思い出。


仲間との絆。


全て、消える。


「椎名くん、ダメだよ」


ユキが俺の手を握った。


「あなたが記憶を失ったら、私たちは...」


「大丈夫だ」


俺は微笑んだ。


「俺は、レイを救いたい」


「でも...」


「レイは、生きたいって言った。人間として生きたいって」


俺は続けた。


「なら、俺は彼女を助ける」


「椎名...」


レイが涙を流した。


「私のために、そこまでしなくていいよ」


「いや、する」


俺は決意した。


「お前は、俺の仲間だ」


リープの準備


俺は、リープを始める準備をした。


「どれくらいリープすればいい?」


俺はクロエに聞いた。


「...50回」


クロエが答えた。


「50回リープすれば、レイの体は安定する」


「50回...」


俺は愕然とした。


これまで、20回以上リープして、記憶がボロボロになった。


50回リープしたら、俺は完全に記憶を失う。


「椎名くん、本当にいいの?」


ユキが聞く。


「ああ。覚悟は決めた」


「でも、私たちのことも忘れちゃうんだよ」


ユキの目に涙が浮かんでいた。


「...忘れても、心には残る」


俺は言った。


「お前たちと過ごした時間は、きっと心のどこかに刻まれてる」


「だから、大丈夫だ」


「椎名...」


タクミが俺の肩を叩いた。


「お前は、本当に優しいな」


「そんなことない」


俺は笑った。


「ただ、仲間を守りたいだけだ」


「じゃあ、始めるぞ」


俺は深呼吸した。


「レイ、待ってろ。必ず助ける」


「椎名...ありがとう」


レイが微笑んだ。


50回のリープ


俺は、自ら命を絶った。


首に刃物を当てる。


一瞬の痛み。


そして、60分前に戻る。


1回目のリープ。


俺の記憶が、少し曖昧になった。


母の顔は覚えている。でも、幼少期の思い出が薄れた。


もう一度、命を絶つ。


2回目のリープ。


母との中学時代の記憶が消えた。


3回目のリープ。


母の声が思い出せなくなった。


10回目のリープ。


母の名前が思い出せなくなった。


「母さん...名前、何だっけ?」


俺は写真を見つめた。


でも、思い出せない。


20回目のリープ。


ユキの顔が曖昧になった。


「お前...誰だっけ?」


「私は、青山ユキだよ」


ユキが泣きながら答えた。


「そうか...ごめん」


30回目のリープ。


タクミの名前が思い出せなくなった。


「お前は...誰だ?」


「桐生タクミだ。お前の仲間だ」


タクミが答えた。


「そうか...」


40回目のリープ。


リクの存在を忘れた。


「この人...誰?」


「田中リクです。一緒にデスゲームを生き延びた仲間です」


リクが答えた。


「デスゲーム...? 何それ?」


俺は、もう何も覚えていなかった。


50回目のリープ。


俺は、自分の名前すら思い出せなくなった。


「俺は...誰だ?」


「椎名リョウだよ」


ユキが涙を流しながら答えた。


「そうか...」


俺は立ち上がった。


体が重い。頭がぼんやりしている。


でも、1つだけ分かることがある。


目の前に、大切な人たちがいる。


名前も、関係も、思い出せない。


でも、大切だということは分かる。


「ありがとう...みんな」


俺は微笑んだ。


レイの安定


50回のリープが終わった。


レイの体が、完全に実体化した。


「...できた」


レイが自分の手を見つめた。


「私、消えない」


「良かった...」


俺は安堵した。


「椎名くん!」


ユキが俺に駆け寄った。


「大丈夫?」


「大丈夫...だと思う」


俺は答えた。


「お前は...誰だっけ?」


「青山ユキだよ。あなたの...大切な人だよ」


ユキが泣きながら答えた。


「そうか...ごめん。思い出せない」


「いいの。私が覚えてるから」


ユキが俺を抱きしめた。


「あなたが私を救ってくれたこと、絶対に忘れない」


「...ありがとう」


俺は、何も思い出せないのに、涙が流れた。


なぜだろう。


悲しいのか、嬉しいのか、分からない。


でも、涙が止まらない。


レイの誓い


「椎名...」


レイが俺に近づいた。


「あなたは、私のために全てを犠牲にした」


「私は、一生あなたに恩を返す」


「恩...?」


「そう。あなたの記憶を、取り戻す」


レイが俺の手を握った。


「私の中に、あなたの記憶がある。50回のリープで生まれた記憶」


「それを、少しずつ返していく」


「時間はかかる。何年も、何十年も」


「でも、必ず返す」


レイが微笑んだ。


「だから、待っててね」


「...分かった」


俺は頷いた。


よく分からないけど、この人は信じられる気がする。


1年後:記憶の回復


1年が経った。


俺は、レイと一緒に生活していた。


毎日、レイが俺に話しかけてくる。


「椎名、今日はこんなことがあったよ」


「お母さんと話したんだ。あなたの母親」


「タクミさんとユキさんも来たよ」


レイは、毎日俺に記憶を語ってくれた。


そして、少しずつ、記憶が戻ってきた。


「母さん...」


俺は、母の顔を思い出し始めた。


「ああ、思い出したの?」


レイが嬉しそうに聞く。


「少しだけ...」


「良かった」


レイが笑った。


「もっと、たくさん思い出してね」


3年後:仲間との再会


3年が経った。


俺は、大学を卒業し、デスゲーム被害者支援会で働いていた。


ユキは医師になった。


タクミは、警察に復帰した。


リクは、娘と幸せに暮らしている。


「椎名、久しぶりだな」


タクミが笑顔で手を振った。


「タクミ...」


俺は、タクミの名前を思い出した。


「久しぶり」


「お前、記憶戻ってきたのか?」


「ああ。少しずつだけど」


俺は笑った。


「みんなのおかげだ」


「椎名くん」


ユキが俺に近づいた。


「覚えてる? 私たち、デスゲームで一緒に戦ったんだよ」


「...覚えてる」


俺は頷いた。


「お前が、俺を救ってくれた」


「逆だよ。あなたが、私を救ってくれたの」


ユキが微笑んだ。


「これからも、一緒にいてね」


「...ああ」


俺は、ユキの手を握った。


10年後:完全な回復


10年が経った。


俺は、全ての記憶を取り戻した。


母との思い出。


デスゲームでの戦い。


仲間との絆。


忘却との出会い。


全て、思い出した。


「レイ、ありがとう」


俺は、レイに言った。


「あなたのおかげで、俺は記憶を取り戻せた」


「どういたしまして」


レイが笑った。


「私こそ、あなたに感謝してる」


「あなたが、私に生きることを教えてくれた」


「だから、お互い様だよ」


「...そうだな」


俺は笑った。


「これからも、一緒に生きよう」


「うん」


レイが頷いた。


「ずっと、一緒」



俺は、全ての記憶を取り戻した。


50回のリープで失った記憶。


レイが、10年かけて返してくれた。


俺は、再び完全な自分に戻った。


でも、変わったこともある。


俺は、記憶の大切さを心から理解した。


そして、仲間の絆を、何よりも大切にするようになった。


窓の外を見る。夕日が沈んでいく。


新しい夜が始まる。


でも、俺は怖くない。


仲間がいるから。


記憶があるから。


俺は、生きていける。


次回予告:第12話『リプレイ・デス』最終話


10年後の平和な日々。


しかし、新たな脅威が現れる。


世界中で、再びデスゲームが増加している。


椎名リョウは、最後の戦いに挑む。


記憶を守るために。


人々を救うために。


そして、全てに決着をつける。

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