第8話「新たな始まり」

第8話「新たな始まり」


朝:1年後


1年が経った。


俺、椎名リョウは大学に復学していた。経済学部の3年生。デスゲームで失った時間を取り戻すように、必死に勉強している。


母の容態は安定していた。報酬の1億円で最新の治療を受けられるようになり、ALSの進行が止まった。まだ車椅子生活だが、少しずつ話せるようになってきた。


「リョウ...大学、楽しい?」


母が微笑む。


「ああ。友達もできたし、勉強も面白い」


「良かった...」


母の目に涙が浮かんでいた。


「あなたが、笑ってくれるのが...一番嬉しい」


「母さん...」


俺は母の手を握った。


「俺、頑張るよ。母さんのためにも」


青山ユキとの再会


大学のキャンパスで、青山ユキと再会した。


彼女も医学部に復学し、医師を目指している。


「椎名くん、久しぶり」


ユキが笑顔で手を振った。


「ユキ、元気そうだな」


「うん。最近、患者さんとの向き合い方が分かってきた気がする」


ユキが続ける。


「あのデスゲームで学んだこと...記憶の大切さ、命の重さ。それを忘れずに、医師になりたい」


「立派だな」


「椎名くんのおかげだよ」


ユキが俺の目を見つめた。


「あなたが、私を救ってくれた。だから、私も誰かを救いたい」


「...ありがとう」


俺たちは、大学のカフェテリアでコーヒーを飲みながら話した。


「最近、デスゲームの被害者支援団体を立ち上げたんだ」


ユキが言った。


「え?」


「タクミさんと一緒に。デスゲームで傷ついた人たちを支援する活動」


ユキが資料を見せてくれた。


『デスゲーム被害者支援会』


代表:桐生タクミ

副代表:青山ユキ


「タクミも関わってるのか」


「うん。彼は元刑事だから、デスゲーム運営組織の摘発も手伝ってる」


ユキが続ける。


「この1年で、全国に12箇所のデスゲーム施設が見つかった。俺たちがいた廃病院は、その1つだった」


「12箇所も...」


「そう。まだ、たくさんの人がデスゲームに参加させられてる」


ユキの目が真剣だった。


「だから、私たちは戦い続けなきゃいけない」


「...ユキ」


「椎名くんも、手伝ってくれない?」


ユキが俺の手を握った。


「あなたの経験、リープ能力のこと...全て、被害者を救うために使えるはず」


「でも、俺のリープ能力は...」


「代償があること、知ってる。でも、あなたなら、上手く使えるはず」


ユキが微笑んだ。


「一緒に、戦おう」


デスゲーム被害者支援会


週末、俺はユキに誘われて、支援会の事務所を訪れた。


小さなビルの2階。看板には『デスゲーム被害者支援会』と書かれている。


ドアを開けると、桐生タクミが出迎えてくれた。


「椎名、久しぶりだな」


「タクミ...元気そうだな」


「ああ。娘のミクと一緒に暮らしてる。毎日が幸せだ」


タクミが笑った。


「お前のおかげだよ」


事務所の中には、田中リクもいた。


「リクさんも!」


「椎名くん、久しぶり」


リクが笑顔で手を振った。


「俺も、この活動に参加してる。娘のユイを守るためにも」


事務所の壁には、地図が貼られている。全国12箇所のデスゲーム施設の場所が記されている。


「これが、現在確認されてるデスゲーム施設だ」


タクミが説明を始めた。


「北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州...全国に散らばってる」


「こんなにたくさん...」


「ああ。そして、運営組織は巨大だ。メモリア・コーポレーションという企業が裏で動いてる」


タクミが続ける。


「彼らの目的は、記憶の収集と売買だ」


「記憶の売買...?」


「そうだ。デスゲームで集めた記憶を、富裕層に売ってる。他人の記憶を体験できるサービスだ」


「そんな...」


俺は愕然とした。


「忘却みたいな存在が、また生まれるかもしれない」


ユキが言った。


「だから、私たちは止めなきゃいけない」


新たなデスゲームの噂


その時、事務所の電話が鳴った。


タクミが電話に出る。


「はい、デスゲーム被害者支援会です」


タクミの表情が変わった。


「...分かりました。すぐに向かいます」


電話を切ったタクミが、俺たちを見た。


「新しいデスゲームの情報が入った」


「どこだ?」


「東京。都内の廃ビルで、明日の夜にデスゲームが開催されるらしい」


タクミが地図を指差した。


「参加者は10人。課題は『記憶の競売』だ」


「記憶の競売...?」


「参加者同士が、自分の記憶を競り売る。一番高値で売れた者が生き残る」


タクミが続ける。


「逆に、誰も買ってくれなかった者は...死ぬ」


「酷い...」


ユキが呟いた。


「どうする? 警察に通報するか?」


リクが聞く。


「いや、警察は動かない。証拠がないからだ」


タクミが言った。


「俺たちが直接行くしかない」


「でも、危険すぎる」


「だから、椎名に頼みたい」


タクミが俺を見つめた。


「お前のリープ能力があれば、参加者を救えるかもしれない」


俺は迷った。


リープすれば、また誰かの記憶が消える。


でも、参加者を見捨てることはできない。


「分かった。行く」


俺は答えた。


「でも、できるだけリープは使わない。最終手段だ」


「ありがとう、椎名」


タクミが頷いた。


廃ビルへの潜入


翌日の夜。


俺、ユキ、タクミ、リクの4人は、廃ビルへ向かった。


東京の下町。古いビルが立ち並ぶエリア。


「あれが、目標のビルだ」


タクミが指差した。


5階建ての古いビル。窓ガラスは割れ、壁には落書きが描かれている。


「中に入るぞ」


俺たちはビルに潜入した。


1階は暗く、ゴミが散乱している。


「上だ」


タクミが階段を指差した。


俺たちは階段を上った。


2階、3階...


5階に着くと、明かりが見えた。


「ここだ」


ドアを開けると、広いホールがあった。


中央には、10人の参加者が座っている。全員、首輪をつけている。


「遅かったか...」


タクミが呟いた。


その時、スピーカーから声が流れた。


「ようこそ、記憶の競売へ」


女の声だ。


「あなたたちは、自分の記憶を競り売ります。一番高値で売れた者が、1億円と共に解放されます」


「逆に、誰も買ってくれなかった者は...死にます」


参加者たちがざわめく。


「制限時間は3時間。さあ、始めましょう」


記憶の競売の開始


参加者の1人が立ち上がった。


30代の男性。スーツを着ている。


「俺の記憶を売る。東大卒、一流企業勤務。年収1000万円の記憶だ」


スクリーンに、男性の記憶が映し出された。


高級マンション、高級車、高級レストラン。


「開始価格、100万円」


誰も手を挙げない。


「...誰も買わないのか?」


男性が焦っている。


次は、20代の女性が立ち上がった。


「私の記憶を売る。アイドルとして活躍した記憶。ファンに囲まれた日々」


スクリーンに、女性の記憶が映し出された。


ステージで歌う姿、ファンの歓声、握手会。


「開始価格、500万円」


「500万円!」


誰かが手を挙げた。


「600万円!」


別の参加者が手を挙げた。


「1000万円!」


最終的に、女性の記憶は1000万円で売れた。


女性の首輪が外れた。


「やった...!」


女性が泣き崩れた。


椎名リョウの介入


俺は、これ以上見ていられなかった。


「待て!」


俺はホールに飛び込んだ。


「誰だ!?」


参加者たちが驚く。


「このゲームは間違ってる。記憶を売るなんて、おかしい」


「でも...俺たちには選択肢がない」


30代の男性が言った。


「借金を抱えてる。記憶を売るしか、生きる道がない」


「違う」


俺は言った。


「記憶は、売るものじゃない。守るものだ」


「綺麗事だ!」


別の参加者が叫んだ。


「お前は、俺たちの苦しみを知らない!」


「知ってる」


俺は続けた。


「俺も、デスゲームに参加した。借金と母の医療費で、追い詰められた」


「でも、俺は仲間に救われた。記憶を守り合って、生き残った」


「だから、お前たちも諦めるな」


その時、スピーカーから声が流れた。


「邪魔者が現れたわね」


女の声。


「あなたは、椎名リョウ。1年前のデスゲーム生存者」


「誰だ?」


「私は、クロエ。メモリア・コーポレーションの幹部よ」


スクリーンに、女性の姿が映し出された。


30代、黒いスーツ、冷たい目。


「あなたは、忘却を倒した。でも、まだ終わってない」


クロエが笑った。


「世界には、忘却のような存在がたくさんいる。私たちは、それを利用してビジネスをしてる」


「記憶を集めて、売る。富裕層は喜んで買う。完璧なビジネスよ」


「ふざけるな!」


タクミが叫んだ。


「記憶は商品じゃない!」


「あら、桐生タクミもいるのね。元刑事の」


クロエが続ける。


「あなたたちは、私たちのビジネスを邪魔してる。許せない」


「だから、特別なゲームを用意したわ」


スクリーンに、新しい映像が映し出された。


俺の母が、病院のベッドに横たわっている。


「母さん!?」


「あなたの母親を、確保させてもらったわ」


クロエが笑った。


「今から3時間以内に、このゲームをクリアできなければ...お母さんは死ぬ」


「やめろ!」


俺は叫んだ。


「母さんは関係ない!」


「関係あるわ。あなたが邪魔をするから」


クロエが続ける。


「さあ、選択して。参加者を救うか、母親を救うか」


第8話の終わり


俺は、究極の選択を迫られた。


参加者を救うか。


母を救うか。


両方は救えない。


窓の外を見る。夜の東京。無数の光が輝いている。


俺は、どうすればいい。


リープすれば、やり直せる。


でも、リープすれば、また誰かの記憶が消える。


「椎名くん」


ユキが俺の手を握った。


「大丈夫。私たちが、一緒に戦う」


「ありがとう」


俺は決意した。


絶対に、全員を救う。


母も、参加者も、仲間も。


次回予告:第9話『記憶回収プロジェクト』


クロエの罠にかかったリョウたち。


母を救うため、リョウは再びリープする。


そして、メモリア・コーポレーションの真の目的が明らかになる。


彼らは、世界中の記憶を集めて、新たな忘却を作り出そうとしていた。

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