第7話「選択」
第7話「選択」
朝:7日目、最終日の始まり
朝、俺は目を覚ました。
7日目。最終日。
窓の外を見る。空が暗い。嵐が来そうだ。
「椎名くん」
ユキが声をかけてきた。
「本当に、赤いボタンを押すの?」
「...ああ」
俺は答えた。
「俺が死んで、リープする。それしか、全員を救う方法がない」
「でも...」
ユキの目に涙が浮かんでいた。
「あなたが何度もリープしたら、記憶が全部消えちゃう」
「大丈夫だ」
俺は嘘をついた。
本当は大丈夫じゃない。もう、記憶はボロボロだ。
でも、これが最後の戦いだ。
その時、スピーカーからクロエの声が流れた。
「おはよう。最終日よ」
クロエの声が、いつもより冷たい。
「中央ホールへ集合して」
第7日目の課題:最後の選択
俺たちは中央ホールへ集められた。
中央には、2つのボタンが置かれている。
赤いボタンと、青いボタン。
「最後の課題よ」
クロエの声が響いた。
「ルールは簡単。制限時間は1時間」
クロエが続ける。
「赤いボタンを押せば、押した者は死ぬ。でも、残りの全員が解放される。記憶も残る」
「青いボタンを押せば、押した者は解放される。でも、残りの全員の記憶が消える。廃人になる」
「そして、誰もボタンを押さなければ...全員死ぬ」
俺は赤いボタンを見つめた。
「椎名、待て」
タクミが俺の腕を掴んだ。
「俺が押す」
「ダメだ。タクミ、お前には娘がいる」
「でも、お前には母親がいる」
「...」
俺は何も言えなかった。
その時、リクが前に出た。
「俺が押す。俺は、もう十分生きた」
「リクさん、ダメです」
ユキが叫んだ。
「みんな、落ち着いて」
俺は言った。
「俺がリープ能力を持ってる。だから、俺が押すのが一番効率的だ」
「でも...」
「いいんだ」
俺は赤いボタンに手を伸ばした。
リョウの決意
「椎名、待て!」
タクミが叫んだ。
でも、俺は止まらなかった。
赤いボタンを押した。
ピピピピピ——
俺の首輪が赤く点滅し始めた。
「椎名くん!」
ユキが駆け寄った。
「大丈夫だ。俺はリープする」
俺は笑った。
「お前たちを、必ず救う」
「椎名...」
タクミが拳を握りしめた。
「すまない...お前に、全部押し付けて」
「気にするな」
俺は続けた。
「お前たちは、俺の仲間だ。仲間を守るのは、当然だ」
ドンッ!
首輪が爆発した。
闇の中:忘却の世界へ
視界が暗転した。
でも、いつものリープと違う。
朝に戻らない。
真っ暗な空間に、俺は立っていた。
「...ここは?」
「よく来たね、椎名リョウ」
忘却の声が響いた。
「お前を、私の世界へ招待しよう」
暗闇の中に、光が現れた。
そして、無数の記憶の断片が浮かび上がった。
写真、映像、音声...
全て、俺がリープで奪った記憶だ。
「これが...俺が奪った記憶か」
「そうだ。お前は、20回以上リープした。20人以上の記憶を奪った」
忘却の姿が現れた。
人間のような形をしているが、体は半透明で、無数の記憶の断片でできている。
「お前のおかげで、私は強くなった。もうすぐ、完全な存在になれる」
「完全な存在...?」
「そうだ。私は、人間が忘れた記憶から生まれた。不完全な存在だ」
忘却が続ける。
「でも、大切な記憶を集めれば、私は完全になれる。そして、永遠に存在できる」
「なぜ、そんなことを...」
「孤独だからだ」
忘却の声が震えた。
「私は、忘れられた記憶だ。誰にも覚えられていない。誰にも愛されていない」
「だから、記憶を集めて、完全な存在になりたかった。誰かに覚えられたかった」
俺は、忘却の目を見た。
その目には、涙が浮かんでいた。
忘却の孤独
「お前は...孤独だったのか」
「そうだ。ずっと、孤独だった」
忘却が言った。
「人間は、記憶を簡単に捨てる。大切な思い出も、愛する人の顔も、忘れていく」
「そして、忘れられた記憶は、私のような存在になる」
「でも...」
俺は続けた。
「お前は、記憶を奪うことで、人々をもっと孤独にしている」
「...」
「タクミは、娘の顔を忘れた。リクは、娘の名前を忘れた。アイは、息子の記憶を失った」
「彼らは、お前のせいで、大切なものを失った」
忘却が黙り込んだ。
「私は...ただ、完全になりたかっただけだ」
「でも、お前のやり方は間違ってる」
俺は言った。
「記憶を奪うんじゃなくて、記憶を共有すればいい」
「共有...?」
「ああ。お前が孤独なら、俺たちが一緒にいる。お前の記憶を聞く。お前の存在を認める」
忘却が目を見開いた。
「本当に...そんなことができるのか?」
「できる」
俺は手を差し出した。
「お前は、孤独じゃない。俺たちが、ここにいる」
忘却が、俺の手を見つめた。
忘却の選択
「でも...私は、たくさんの記憶を奪った。許されない」
「許す」
俺は言った。
「お前は、孤独だった。だから、間違った選択をした。でも、今からやり直せる」
「やり直す...」
「ああ。お前が集めた記憶を、全部返せ。そうすれば、お前は許される」
忘却が震えた。
「でも...記憶を返したら、私は消える」
「消えない」
俺は続けた。
「お前は、俺たちの記憶の中に残る。俺たちが、お前を覚えている」
「椎名リョウ...」
忘却が涙を流した。
「お前は...本当に優しいな」
「そんなことない」
俺は笑った。
「俺は、ただ仲間を守りたかっただけだ」
忘却が、俺の手を握った。
「ありがとう...初めて、誰かに認められた」
忘却の体が、光り始めた。
「記憶を、全部返す。お前たちの記憶を」
無数の記憶の断片が、忘却の体から離れていく。
タクミの娘の記憶。
リクの娘の名前。
アイの息子の記憶。
ユキの患者の記憶。
ハルカの看護師になった理由。
ケンジの妻の記憶。
そして、俺の母の記憶。
全てが、戻っていく。
「ありがとう、椎名リョウ」
忘却が微笑んだ。
「お前のおかげで、私は救われた」
忘却の体が、完全に光に包まれた。
そして、消えた。
現実世界への帰還
気づいたら、俺は中央ホールに立っていた。
首輪は外れていた。
「椎名くん!」
ユキが駆け寄ってきた。
「大丈夫!? 生きてる!?」
「...ああ、生きてる」
タクミとリクも駆け寄ってきた。
「椎名、お前...忘却を倒したのか?」
「ああ...倒したというより、救った」
「救った?」
「忘却は、孤独だった。だから、記憶を集めていた」
俺は続けた。
「でも、俺が手を差し伸べたら、忘却は記憶を返してくれた」
「そうか...」
タクミが頷いた。
「じゃあ、俺たちの記憶も...」
「戻ってるはずだ」
その瞬間、タクミが目を見開いた。
「ミク...娘の名前は、ミクだ! 顔も、思い出せる!」
タクミが涙を流した。
「娘の笑顔が...戻ってきた!」
リクも叫んだ。
「ユイ! 娘の名前は、ユイだ! 思い出した!」
ユキも笑っていた。
「患者さん...ごめんなさい。でも、あなたのことは忘れません」
俺も、記憶が戻ってきた。
母の顔。
母との思い出。
公園でアイスを食べたこと。
中学で勉強を頑張ったこと。
高校で大学を目指したこと。
そして、母がALSになって、俺がこのゲームに参加したこと。
全て、思い出せる。
「母さん...」
俺は涙を流した。
「俺、帰るよ」
エピローグ:1ヶ月後
1ヶ月後。
俺は、母の病室にいた。
「母さん、ただいま」
母が、目で合図する。
「おかえり」と言っているように見えた。
「ゲーム、クリアしたよ。報酬の1億円、もらえた」
母が微笑む。
「治療費、全部払える。母さんの病気も、良くなるかもしれない」
母の目から、涙が流れた。
「ありがとう」と言っているように見えた。
「母さん、俺...たくさんの人に助けられた」
俺は続けた。
「ユキ、タクミ、リク...みんなが、俺を支えてくれた」
「そして、忘却も。忘却は、最後に記憶を返してくれた」
「だから、俺は生きてる。母さんと一緒に」
母が、ゆっくりと手を動かした。
俺の手を、握ってくれた。
「ありがとう」
母の声が、微かに聞こえた。
仲間たちとの再会
病院の外で、ユキ、タクミ、リクが待っていた。
「椎名くん、お母さんは?」
「元気だよ。少しずつ、回復してる」
「良かった」
ユキが笑った。
「タクミは? 娘さんに会えた?」
「ああ。昨日、会ってきた。ミクは元気だった」
タクミが笑顔を見せた。
「お前のおかげだ、椎名」
「リクは?」
「娘のユイに、たくさん謝った。忘れてごめんって」
リクが涙を流した。
「でも、ユイは笑ってくれた。『パパ、おかえり』って」
「良かったな」
俺も笑った。
「俺たち、生き残れたな」
「ああ」
タクミが言った。
「お前のおかげで、俺たちは記憶を取り戻せた」
「いや、みんなのおかげだ」
俺は続けた。
「俺1人じゃ、無理だった。みんなが支えてくれたから」
「椎名くん」
ユキが俺の手を握った。
「これからも、一緒だよ」
「...ああ」
俺たちは、夕日を見つめた。
**忘却の墓**
数日後、俺たちは廃病院へ戻った。
裏庭に、小さな墓を作った。
『忘却』
名前だけが刻まれた墓だ。
「忘却...お前は、孤独だったな」
俺は墓に手を合わせた。
「でも、お前は最後に優しかった。記憶を返してくれた」
「だから、俺たちは忘れない。お前のことを」
タクミ、リク、ユキも手を合わせた。
「忘却...安らかに」
風が吹いた。
まるで、忘却が答えているようだった。
俺たちは、新しい人生を歩み始めた。
デスゲームは終わった。
忘却は消えた。
でも、記憶は残っている。
仲間との絆。
母との思い出。
そして、忘却の優しさ。
全て、俺の心に刻まれている。
俺は、これからも生きていく。
記憶を大切にしながら。
次回予告:第8話『新たな始まり』
デスゲームの1年後。
リョウは大学に復学し、ユキと共にデスゲーム被害者を支援する活動を始める。
しかし、新たなデスゲームの噂が...
世界には、まだ忘却のような存在がいる。
リョウの戦いは、続く。
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